十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
「ル、ルーク」
おずおずと声をかけると、ルークがさっと振り返った。そのハシバミ色の目が見開かれ、夕食のために着替えたカミラを上から下までじっくりと眺める。
(どう、かしら? おかしくないかしら?)
惚けたような顔の夫に見つめられながら、カミラは緊張と期待で弾けそうになる胸元に手を当てたのだが。
「……これから、どこかにお出かけになるのですか?」
「えっ?」
少し困ったような顔の夫の言葉に、カミラの胸が急速に冷える。
ルークは視線を床に落とし、カミラのためなのか玄関ドアの前から体をずらした。
「外で夕食を召し上がるのでしたら、遅くなる前にお帰りになりますように――」
「ち、違うわ。外出なんてしないわ」
勘違いしているらしいルークに詰め寄り、カミラは言葉を続ける。
「私、あなたが帰ってくると聞いて着替えたの。まだ、あなたから贈られたドレスを着て見せたことがなかったから……」
「……ですがこれから夕食ですよ?」
「夕食用に着替えたのだけれど……」
そこでカミラは、自分とルークに認識のずれが生じていることに気づく。
カミラは腐っても王族であるため、晩餐の前に着替えることは当たり前だった。人生の半分は修道院で過ごしたものの、そこでも上司にあたる司教やよその修道院の司祭などと会食するときには正餐用のローブに着替えていた。
だが平民のルークには、食事の前にわざわざきれいな服に着替えるという習慣がない。
彼にとって女性がきれいなドレスを着るのは外出するときで、自宅で、それも夫と二人だけの食事で正装するという発想がないのだ。
ルークも遅れて気づいたようで、色白の頬がさっと青ざめる。
「……そ、そういうことだったのですか。申し訳ございません、不勉強で……」
「いえ、気にしないで。……ええと、ではそろそろ仕度もできるでしょうし、食堂に行きましょう?」
「はい。……あ、いえ、先に行っていてください」
ルークは途中で言い直し、足早に廊下を歩いて行ってしまった。
(……褒めてもらえなかったわ)
残されたカミラは肩を落とし、その場にいた使用人を慌てさせてしまった。
(歩み寄るというのも、簡単な話ではないのね……)
誤解が生じでも、その都度情報のすりあわせをすればいい。
だがこうも何度もすれ違いが生じると、歩み寄ろうとすることにも躊躇いができてしまう。ルークの方も、扱いづらい妻だと思っているのではないだろうか。
おずおずと声をかけると、ルークがさっと振り返った。そのハシバミ色の目が見開かれ、夕食のために着替えたカミラを上から下までじっくりと眺める。
(どう、かしら? おかしくないかしら?)
惚けたような顔の夫に見つめられながら、カミラは緊張と期待で弾けそうになる胸元に手を当てたのだが。
「……これから、どこかにお出かけになるのですか?」
「えっ?」
少し困ったような顔の夫の言葉に、カミラの胸が急速に冷える。
ルークは視線を床に落とし、カミラのためなのか玄関ドアの前から体をずらした。
「外で夕食を召し上がるのでしたら、遅くなる前にお帰りになりますように――」
「ち、違うわ。外出なんてしないわ」
勘違いしているらしいルークに詰め寄り、カミラは言葉を続ける。
「私、あなたが帰ってくると聞いて着替えたの。まだ、あなたから贈られたドレスを着て見せたことがなかったから……」
「……ですがこれから夕食ですよ?」
「夕食用に着替えたのだけれど……」
そこでカミラは、自分とルークに認識のずれが生じていることに気づく。
カミラは腐っても王族であるため、晩餐の前に着替えることは当たり前だった。人生の半分は修道院で過ごしたものの、そこでも上司にあたる司教やよその修道院の司祭などと会食するときには正餐用のローブに着替えていた。
だが平民のルークには、食事の前にわざわざきれいな服に着替えるという習慣がない。
彼にとって女性がきれいなドレスを着るのは外出するときで、自宅で、それも夫と二人だけの食事で正装するという発想がないのだ。
ルークも遅れて気づいたようで、色白の頬がさっと青ざめる。
「……そ、そういうことだったのですか。申し訳ございません、不勉強で……」
「いえ、気にしないで。……ええと、ではそろそろ仕度もできるでしょうし、食堂に行きましょう?」
「はい。……あ、いえ、先に行っていてください」
ルークは途中で言い直し、足早に廊下を歩いて行ってしまった。
(……褒めてもらえなかったわ)
残されたカミラは肩を落とし、その場にいた使用人を慌てさせてしまった。
(歩み寄るというのも、簡単な話ではないのね……)
誤解が生じでも、その都度情報のすりあわせをすればいい。
だがこうも何度もすれ違いが生じると、歩み寄ろうとすることにも躊躇いができてしまう。ルークの方も、扱いづらい妻だと思っているのではないだろうか。