十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
「そうしてお父様は、お母様のお体をこちらに移されたのです」
ディアドラはそう言って、リビングの窓から見える草原の方を手で示した。
「ここは、ベレスフォード伯爵領内にある伯爵邸です」
「えっ? 伯爵領?」
「はい。お父様が必死に働かれて、我が家は伯爵位を得たのです」
ディアドラは、静かに微笑んだ。
「私が生まれた王都の屋敷は、襲撃事件があったこともあって取り壊しになりました。でもお父様はお母様のことをとても愛してらっしゃいますから、お母様の部屋をそのままこちらの屋敷にも移しております」
「……えっ? 愛して……?」
そこでカミラは、ルークのことを聞き忘れていたと気づいた。ずっと夢見心地だったが、ようやく頭も目が覚めてきたようだ。
「そう、ルーク! あの人は元気なの?」
「お元気ですよ。お母様もご存じだと思いますが我が父ながらお父様はとても見目がよろしいので、再婚を希望する令嬢もいたようです。ですがお父様はお母様が必ず目覚めると信じてらっしゃいましたし、そもそもお母様以外の女性に関心がないようで全て断っていました」
「……」
ディアドラは恥じらいがないのか父の恋愛事情について淀みなくしゃべるが、カミラの方がなんだか恥ずかしくなってきた。
(え、ええと……? ルークが、私を愛している? 私以外の女性に関心がない?)
確かに手紙のやりとりをしていてルークとの距離は縮んだと思っていたが、そこまで愛されている自覚はなかった。
カミラとしてはせめて、ディアドラの両親として協力し合っていけたらいいくらいの気持ちだったのだが。
「あの……」
「まあ、お父様のことはご本人から聞いてください。今は王都にいらっしゃいますが、いずれ戻ってこられますので」
ディアドラはそう言ってから、カミラのお茶のおかわりを手ずから注いでくれた。
――十五年前、ルークは一日でも早く妻と娘に会いたいと思い、仲間たちを置いて一人馬を走らせた。そのおかげでカミラが完全に石化する直前に帰ってこられたものの、妻を助けることはできなかった。
ルークは妻や娘を襲った者たちを捕まえ問い詰め拷問し、王妃が主犯であると割り出した。そしてあの手この手を使って王妃を自供させ、彼女を離島にある寂れた塔に放り込むことに成功した。
カミラに対して意地の悪いジェラルドも、まさか妃がここまでのことをやらかすとは思っていなかったようだ。ジェラルドとしては自分によく似た青い目を持つディアドラをそれなりに大切にするつもりだったようだが、意気消沈してしまった。
結果、妃の蛮行の責任は自分にもあるとジェラルドは彼なりに反省したらしく、親戚筋の者に王位と息子の養育を託して蟄居した。
王位を継いだ男性はジェラルドの息子を後継者に指名しており、現在十九歳の王太子が二十歳になったら王位を譲ると言っているそうだ。
ルークはシャムロック家の内部改革にも精力的に付き合い、国王の補佐をして王太子に剣術や戦術の指導を施し、騎士団の改革にも携わった。
そうして彼は自力でベレスフォード伯爵位を得て、王女を妻に持つ伯爵騎士としてラプラディア王国に貢献しているという。
ディアドラは、そんな父の背中を見て育った。
ディアドラはそう言って、リビングの窓から見える草原の方を手で示した。
「ここは、ベレスフォード伯爵領内にある伯爵邸です」
「えっ? 伯爵領?」
「はい。お父様が必死に働かれて、我が家は伯爵位を得たのです」
ディアドラは、静かに微笑んだ。
「私が生まれた王都の屋敷は、襲撃事件があったこともあって取り壊しになりました。でもお父様はお母様のことをとても愛してらっしゃいますから、お母様の部屋をそのままこちらの屋敷にも移しております」
「……えっ? 愛して……?」
そこでカミラは、ルークのことを聞き忘れていたと気づいた。ずっと夢見心地だったが、ようやく頭も目が覚めてきたようだ。
「そう、ルーク! あの人は元気なの?」
「お元気ですよ。お母様もご存じだと思いますが我が父ながらお父様はとても見目がよろしいので、再婚を希望する令嬢もいたようです。ですがお父様はお母様が必ず目覚めると信じてらっしゃいましたし、そもそもお母様以外の女性に関心がないようで全て断っていました」
「……」
ディアドラは恥じらいがないのか父の恋愛事情について淀みなくしゃべるが、カミラの方がなんだか恥ずかしくなってきた。
(え、ええと……? ルークが、私を愛している? 私以外の女性に関心がない?)
確かに手紙のやりとりをしていてルークとの距離は縮んだと思っていたが、そこまで愛されている自覚はなかった。
カミラとしてはせめて、ディアドラの両親として協力し合っていけたらいいくらいの気持ちだったのだが。
「あの……」
「まあ、お父様のことはご本人から聞いてください。今は王都にいらっしゃいますが、いずれ戻ってこられますので」
ディアドラはそう言ってから、カミラのお茶のおかわりを手ずから注いでくれた。
――十五年前、ルークは一日でも早く妻と娘に会いたいと思い、仲間たちを置いて一人馬を走らせた。そのおかげでカミラが完全に石化する直前に帰ってこられたものの、妻を助けることはできなかった。
ルークは妻や娘を襲った者たちを捕まえ問い詰め拷問し、王妃が主犯であると割り出した。そしてあの手この手を使って王妃を自供させ、彼女を離島にある寂れた塔に放り込むことに成功した。
カミラに対して意地の悪いジェラルドも、まさか妃がここまでのことをやらかすとは思っていなかったようだ。ジェラルドとしては自分によく似た青い目を持つディアドラをそれなりに大切にするつもりだったようだが、意気消沈してしまった。
結果、妃の蛮行の責任は自分にもあるとジェラルドは彼なりに反省したらしく、親戚筋の者に王位と息子の養育を託して蟄居した。
王位を継いだ男性はジェラルドの息子を後継者に指名しており、現在十九歳の王太子が二十歳になったら王位を譲ると言っているそうだ。
ルークはシャムロック家の内部改革にも精力的に付き合い、国王の補佐をして王太子に剣術や戦術の指導を施し、騎士団の改革にも携わった。
そうして彼は自力でベレスフォード伯爵位を得て、王女を妻に持つ伯爵騎士としてラプラディア王国に貢献しているという。
ディアドラは、そんな父の背中を見て育った。