十五年の石化から目覚めた元王女は、夫と娘から溺愛される
愛の行方
カミラが目を覚まして三日目……の夜。
「あの、本当にここでいいの?」
「はい、いいのです。お母様はここにいてください」
もうすぐルークが帰ってくる、ということでカミラは夫を出迎えようとしたのだが、なぜかディアドラの強い主張により自分が十五年間寝かされていた部屋で待たされることになった。
どうやらこの部屋が夫婦用の寝室らしく、ルークは妻をここに寝かせて毎日メイドに世話をさせ、自分は別室で一人で寝ていたようだ。カミラは知らなかったが、目覚めてすぐに天国にいると思い込み隣人に挨拶しようとしてノックした部屋の一つが、ルーク用の部屋だったという。
ディアドラは「あのいつも澄ましているお父様を、驚かせましょう」とか言って、カミラを夫婦用の寝室で待機するように言った。
そして使用人たちにも「お父様をびっくりさせるわ!」と言っており、屋敷の者全員で壮大なサプライズをかますことにしたようだ。
(大丈夫かしら……)
後でディアドラがルークに叱られないか不安だったが、ディアドラ本人はけろっとしているから大丈夫なのだろう。
そういうことでカミラは大きなベッドに腰かけ、そこでルークが来るのを待つことにした。
(……どうしよう。今になって、緊張してきたわ)
シーツを握ったり枕を揉んだりしながら、カミラはそわそわしていた。
大人の女性になったディアドラと再会したときは全てが急展開だったから状況についていくのに必死だったが、落ち着いてきた今だからこそルークのことを妙に意識してしまう。
(三十三歳のルークって、どんな人なの? というか、本当に私のことを愛しているの? 私を見て、どんな反応をするの?)
そもそもカミラはルークと過ごした時間が短いので、彼がどんな人なのか正直よくわかっていない。わかろうとする前に、石化してしまったから。
(愛しているとしてもそれは昔の頃の私で、七歳も下になった私には関心がなかったり……?)
それも十分あり得る話だ。また、これから結婚などを考えるべき十六歳の娘の母親として、二十六歳のカミラでは務まらないと思うかもしれない。
(不安になってきたわ……)
落ち着かない気持ちでしばらく待っていると、庭の方から馬の鳴き声が聞こえてきた。はっとして窓辺に向かうと、ランタンを手に玄関に入っていく人の影が見えた。
(ルーク!?)
どきどきしていると、やけに聴覚だけが研ぎ澄まされる。
玄関のドアが開いて、閉まる音。ディアドラが何か機嫌がよさそうに言い、それに対して男性が低い声で応じるのが聞こえてきて、目眩がしそうになった。
(ルークの声……)
昔の彼は、声変わりは終わっているもののまだ少年らしい声の響きがあった。
結婚してから二年間は手紙だけのやりとりで、石化する直前に十八歳の頃の彼の声をわずかに聞けたが、あまりはっきりとは覚えていない。
窓辺からベッドに戻ったカミラの耳に、コツ、コツ、と階段を上がる音が聞こえてきた。
いよいよ心臓が口から飛び出そうになるが久しぶりに再会する彼に無様な姿を見せるまいと、カミラは背筋を伸ばしてドアの方を見つめる。
カチャリ、とカミラが内側から鍵をかけたドアが解錠される。
そうしてドアがゆっくり開き――そこに立っていた人と、カミラの視線がぶつかった。
「あの、本当にここでいいの?」
「はい、いいのです。お母様はここにいてください」
もうすぐルークが帰ってくる、ということでカミラは夫を出迎えようとしたのだが、なぜかディアドラの強い主張により自分が十五年間寝かされていた部屋で待たされることになった。
どうやらこの部屋が夫婦用の寝室らしく、ルークは妻をここに寝かせて毎日メイドに世話をさせ、自分は別室で一人で寝ていたようだ。カミラは知らなかったが、目覚めてすぐに天国にいると思い込み隣人に挨拶しようとしてノックした部屋の一つが、ルーク用の部屋だったという。
ディアドラは「あのいつも澄ましているお父様を、驚かせましょう」とか言って、カミラを夫婦用の寝室で待機するように言った。
そして使用人たちにも「お父様をびっくりさせるわ!」と言っており、屋敷の者全員で壮大なサプライズをかますことにしたようだ。
(大丈夫かしら……)
後でディアドラがルークに叱られないか不安だったが、ディアドラ本人はけろっとしているから大丈夫なのだろう。
そういうことでカミラは大きなベッドに腰かけ、そこでルークが来るのを待つことにした。
(……どうしよう。今になって、緊張してきたわ)
シーツを握ったり枕を揉んだりしながら、カミラはそわそわしていた。
大人の女性になったディアドラと再会したときは全てが急展開だったから状況についていくのに必死だったが、落ち着いてきた今だからこそルークのことを妙に意識してしまう。
(三十三歳のルークって、どんな人なの? というか、本当に私のことを愛しているの? 私を見て、どんな反応をするの?)
そもそもカミラはルークと過ごした時間が短いので、彼がどんな人なのか正直よくわかっていない。わかろうとする前に、石化してしまったから。
(愛しているとしてもそれは昔の頃の私で、七歳も下になった私には関心がなかったり……?)
それも十分あり得る話だ。また、これから結婚などを考えるべき十六歳の娘の母親として、二十六歳のカミラでは務まらないと思うかもしれない。
(不安になってきたわ……)
落ち着かない気持ちでしばらく待っていると、庭の方から馬の鳴き声が聞こえてきた。はっとして窓辺に向かうと、ランタンを手に玄関に入っていく人の影が見えた。
(ルーク!?)
どきどきしていると、やけに聴覚だけが研ぎ澄まされる。
玄関のドアが開いて、閉まる音。ディアドラが何か機嫌がよさそうに言い、それに対して男性が低い声で応じるのが聞こえてきて、目眩がしそうになった。
(ルークの声……)
昔の彼は、声変わりは終わっているもののまだ少年らしい声の響きがあった。
結婚してから二年間は手紙だけのやりとりで、石化する直前に十八歳の頃の彼の声をわずかに聞けたが、あまりはっきりとは覚えていない。
窓辺からベッドに戻ったカミラの耳に、コツ、コツ、と階段を上がる音が聞こえてきた。
いよいよ心臓が口から飛び出そうになるが久しぶりに再会する彼に無様な姿を見せるまいと、カミラは背筋を伸ばしてドアの方を見つめる。
カチャリ、とカミラが内側から鍵をかけたドアが解錠される。
そうしてドアがゆっくり開き――そこに立っていた人と、カミラの視線がぶつかった。