恋のライバルは学年2位の優等生。私のアプローチは空振り中です!

第十二話 「明日は本番」

 文化祭前日の夕方。

 教室の窓から差し込む西日が、オレンジ色に床を染めていた。
 装飾も、小道具も、配置も——ひととおりの準備は終わっている。

「……こんなもんか」

 啓斗が、最後に教室全体を見渡しながら小さくつぶやいた。
 机の上には、謎解き用の資料や小道具が整然と並べられている。
 その隣で、真帆がチェックリストに目を落としていた。

「導線も問題なし。ヒントの配置も想定通りね」

 淡々と確認しながらも、その声にはどこか張りつめたものが混じっている。

――ここまで来たら、あとは本番だけ。

 ミスは許されない。
 そんな空気を、真帆は内側に抱えていた。

 一方で、教室の後ろでは——。

「……よし!」

 沙羅が、小道具の入った箱をぱたんと閉じた。
 封蝋の手紙、鍵付きボックス、ビーズのブレスレット。  どれも、自分なりにこだわって作ったものばかりだ。

――ちゃんと、通用するかな。

 ふと、不安がよぎる。

 でも、それ以上に——。

――絶対、成功させたい。

 胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「沙羅ちゃん、そのブレスレット、最終ヒントの鍵になるんだよな」

 啓斗が、ふと思い出したように声をかけてきた。

「うん。順番通り読めば、場所が分かるようにしてある」

「いいと思う。ちゃんと“気づける難易度”になってる」

 その言葉に、沙羅の緊張が少しだけほどけた。

「……そっか」

 真帆も、そのやり取りを横目で見ていた。

「……本番、ちゃんと機能するかどうかは別問題だけどね」

 あえて冷静な言い方をする。

 けれど、その視線はほんのわずかに柔らいでいた。

――まあ、悪くはない出来だと思うわ。

 言葉には出さないが、そんな評価がにじむ。
 教室の時計が、静かに時を刻む。
 外では、他のクラスの準備の音がまだかすかに響いていた。

「じゃあ、戸締りして帰るか」

 啓斗がそう言って、電気のスイッチに手を伸ばす。
 ぱちん、と音がして、教室が少しだけ暗くなる。
 夕焼けの光だけが残る空間で、三人は一瞬、立ち止まった。

――明日、ここで全部が動き出す。

 期待と不安が、静かに交差する。
 誰も口には出さなかったが、同じことを思っていた。
 そして三人は、それぞれの想いを胸に、教室を後にした。
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