『俺を好きになるな』って言ったのに、幼馴染（転生姫）がフラグを折らせてくれません

第1章「好きバレしたら、お前は死ぬ」

〇学校・教室・昼休み

高校2年生の白波 雫(しらなみしずく)は、クラスの友人たちと談笑しながら弁当を広げる。
明るく、誰とでもすぐに打ち解ける性格の彼女は、教室の中心にいるタイプではないが、人懐っこさからクラス内での居場所はしっかりと確保している。

その様子を、少し離れた席で見ている男が黒瀬 透真(くろせとうま)。
彼は雫の幼馴染であり、学年トップの成績を誇る優等生。
落ち着いた佇まいと整った顔立ちから、男女問わず人気がある。

しかし、彼の視線には淡々としたものではなく、どこか異様なまでの執着がにじんでいた。

透真M「また、笑ってやがる…。そんなに楽しそうにして…何も知らないままでいられるなら、それでいい。でも、もし俺の気持ちがバレたら……お前は——」

透真の指が、無意識のうちにペンを強く握りしめる。

その瞬間、雫の前に座っていたクラスメイトの男子、赤城 直人(あかぎなおと)が何気なく話しかける。

〇教室・談笑中・昼休み

赤城「白波、次の試験範囲、ちゃんと把握してる？」
雫「え、えっと……正直、あんまり……」
赤城「じゃあさ、よかったら僕と一緒に勉強しない？ 僕、結構得意なんだよね」

雫が「え？」と驚いた表情を浮かべた次の瞬間、彼女の隣に座っていた透真が静かに口を開いた。

透真「白波は、俺と勉強するからいいよ」
赤城「…え？」
雫「…え？」

雫が驚いた顔で透真を仰ぎ見る。
普段、誰にでも穏やかで優しい透真が、珍しく冷たい口調で言い切る。

赤城は一瞬気圧されるが、冗談めかして笑い、肩をすくめる。

赤城「そっか。幼馴染がいると、そういうの便利だよな。じゃ、また今度な、白波」
雫「あ、うん……！」

赤城が立ち去ると、透真は何事もなかったかのように弁当の箸を動かし始める。

〇廊下・昼休み後

雫が透真と並んで歩く。さっきの赤城とのやりとりが気になっていた。

雫「……ねえ、さっきの、ちょっと強引すぎじゃない？」
透真「何が？」
雫「赤城くんの申し出、即答で断っちゃうなんて……私だって、別に友達と勉強するくらい……」
透真「必要ない。お前は俺と勉強すればいい」

透真は視線を前に向けたまま、淡々とした口調で言う。
しかし、その指先はほんのわずかに震えていた。

雫「……なんか、最近の透真、変じゃない？」
透真「そうか？」
雫「うん。なんていうか……」

雫が言葉を探していると、透真が足を止め、急に雫の顔を覗き見る。

透真「……お前は、俺のこと、怖いと思うか？」
雫「え？」
透真「あ、いや、なんでもない」

透真はバツが悪そうな顔を一瞬して再び歩き出す。
だが、雫は彼の背中を見つめながら、胸の奥にわずかな違和感を覚えていた。

【場面転換】
〇透真の部屋・夜

透真は部屋の暗闇の中、ひとりベッドに座る。
片手に古びたノート。
そのノートには、異世界「鳳凰国」の歴史と、前世の記憶が記されていた。

透真M「俺はもう知っている。雫、お前は——玲蘭（れいらん）。俺の前世の許嫁。そして、俺が愛した女だ……」

彼の目が、闇の中で静かに光る。

透真M「お前を愛したせいで、俺はお前を失った。だから、今回は——俺の想いがバレるわけにはいかない」

透真M「俺が愛していることを、お前が知ってしまったら——また、命を狙われることになる」

透真はゆっくりとノートを閉じ、目を閉じる。

しかし、その指は震えていた。