天使の階段
その日の夜、私はタカさんの車の中にいた。

「久しぶりだね。」

「はい。」

他愛もない話ばかりをするうちに、車はいつの間にか、ホテルの中に入っていく。

エンジンを止めると、タカさんは柔らかく、私の手を握った。

「いいよね?」

タカさんの質問に、小さくうなづいた後は、断片的にしか覚えていない。


シャワーの音。

触れる肌のぬくもり。

タバコの匂い。


そして……

「はい、これ。」

目の前に置かれたお札。

「確か3枚だったよね。」

それを受け取ると、タカさんは名刺も、一緒に置いた。

「これ、俺の携帯だから。紗香ちゃんのも教えて。」

タカさんのそんな言葉も、頭の中を素通りしていく。


その時、私が考えていたのは、あのシューズの事。

脇に置かれた3枚の1万円札を、手に取った。

これで ”あれ”が 手に入る。

それだけしか、考えていなかった。
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