天使の階段
初めて付き合った男性がお父さんで、初めて産んだ子供が私のお母さんには、耐えられない悲しみだったのに違いない。

「ですので、出産経歴も紗香さんには、残ります。」

それを聞いたお母さんは、堪りかねて泣き出した。

「それでもいいです。早く処理してください。」

「分かりました。日にちはどうしますか?明日でもよろしいでしょうか。」

「ええ。できるだけ早く、お願いします!」


私の体なのに、私無しで話が進んでいく。

診察代を払う時も、家に帰る途中も、お母さんはずっと泣いてばかりだった。

そして、泣きながら私の手を握って、こう言い続けた。

「紗香、怖くないからね。眠っているうちに、終わるからね。」

でも当の私には、そんな話も、通りすぎていく。

ただ思った事は、これでお腹の中の“モノ”と、さよならできるということ。

それだけだった。
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