前世で魔王に殺された聖女ですが、ごく平凡な一般人に生まれ変わっても魔王に捕まりました。なんか用ですか?
いつもより枕が硬い。そして体が温かい。

「ん?」

目を開けると魔王。それはいい。もう我慢する。

「近い」

ベッドの真ん中に連れ戻されて、くっついて寝ていたようだ。
魔王はまだ寝ているようだ、珍しい。
離れようにも腕でロックされている。逃れようとじたばたする。

「起きたのか」

もっと近くに抱き寄せられた。

「顔を洗いたいの」
「……もう少し」

魔王は寝ボケているのかまた目をつむる。

「起きて、放して!」
「こういう時はキスして起こすものだろう?」
「貴方どこでそんなこと覚えてきたの?!」

どこで何から仕入れた情報だ。絵本だろうか。
サラが暴れても放してくれない。

「ほら」

魔王は見つめ攻撃してくる。威力は高い。

「というか起きてるじゃない」
「今日は外出しない。腕は外さなくて良いのか?」
「うーむ……」

サラはちょっとの隙に魔王の腕の中でくるりと回った。
そしてこめかみに音が少しするようにキスをした。
魔王の手の力が緩んで離れた。その手で顔を覆っている。
悶えているようだ。
サラは洗面所へそそくさと逃げた。

(一日中くっついていられるか、この野郎)

顔を洗ってタオルで拭いていると魔王が背中にはりついてきた。
鏡越しで見る魔王は笑顔だ。とびっきりの無邪気な笑顔。
サラはその表情を見て驚く。
不覚にもサラはきゅんとしてしまった。
まずい予感しかしなかった。



その後、花に水をやり、読書をはじめたがずっと魔王がサラを観察している。
魔王が近くに行くとサラは同じ距離を離れる。
全然、集中できない。

「サラ、そう警戒するな」
「いや、普通するでしょ?」
「半年は我慢するから」
「信用できないわ」

サラは本を閉じながらじとりと見る。
また魔王が近づいてくる。すすすとサラは逃げる。

「サラ」
「来ないで」
「……」

魔王は諦めたのか化粧台のイスに座る。またじっと見てくる。
サラは警戒を続けながら本棚に本を戻す。もう読書を楽しむどころではない。

「今日はなぜ出掛けないか聞かないのか?」
「聞かない」

サラは魔王から視線を外さない。いつ近づいてくるかわからないからだ。
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