超人気美男子の彼女になった平凡女は平和な交際を求めて苦悩する
「まず、僕が個人的にお前を気に入っている、ということが大きな理由の1つだな。
他には、ここの利用頻度が高く、司書の仕事をスムーズに引継げる、というのもある」

「はい…」

「膨大な書物量の管理も、頭の回転が速いアンセムならばやりこなせるだろう。僕としても非常に安心感がある」

アンセムは考えながらカイの話を聞いていた。

「それになにより、アンセムは女の子の好意に敏感だ。それは自分以外に向けられたものでもそうだろう。繊細な神経を持っているからな。ここで働く者に必要な素質だ。
後は、テラスを好きになったというのが決め手になった」

「テラスを?なぜですか?」

思わぬところにテラスが出てきて驚くアンセム。

「テラスで苦労したからだよ」

「苦労って…」

「アンセムはテラスに出会うまで、特定の異性のために深く考えたり悩んだり、そういうことはなかっただろう」

アンセムは以前の自分を振り返る。

「そうですね…。そこまで強い気持ちを持つことがありませんでしたから」

「だな。しかも、引く手数多ときている。
そういう状態しか知らなければ、誰かを好きになったときの苦しい気持ちを理解できなかっただろう」

「そうかもしれません…」

素直に頷くアンセムを、カイは満足気に見た。

「いやいや、愉快だったぞ。テラスに振り回されるおまえを見るのは。随分と奮闘していたからな。
凹んでる時の表情なんか、『沈鬱』という題名で作品を残しても良い位だった」

いつものニヤニヤ顔で嬉しそうに言うカイ。
アンセムはガックリとうなだれた。

「カイさん…。そんなことはどうでもいいですよ。本題に戻ってください」

まったくこの人はどこまで人をからかって楽しむつもりだろうか。
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