大好きなお姉さまが悪役令嬢?!処刑回避のためにひきこもったら、隣国の王子に狙われているようです?
「お姉さま」
 子ども特有の甘えた声だ。誰が見てもその子がエレノアの血縁者であるとわかる見目だった。勿忘草色の髪の毛は、垂れたうさぎの耳のように結ばれ、琥珀色の目は丸くはっきりとしていて愛嬌がある。
「王太子殿下とのお話は終わりましたか? セシリア、人がいっぱいで疲れてしまいました。はやく、おうちに帰りたいです」
 ホール内に響くセシリアの声に、両親の慌てる姿がみてとれた。父親なんぞ、額に青筋をたててこちらに走ってきそうな勢いだが、それをゆるりと首を振って制したのはエレノアだ。
「そうね。大事なお話は終わりましたから、今日はもう、帰りましょう」
 エレノアは手を伸ばして、セシリアの小さな手をしっかりと握りしめる。
「ジェラルド王太子殿下。手続きに必要な書類については、ケアード公爵邸にお送りください」
 もう一度、エレノアが優雅に腰を折ったため、セシリアもそれに倣う。
「わたくしがこの場にいないほうが、みなさまも楽しめるでしょう。せっかくのパーティーですもの、最後までお楽しみください。それではごきげんよう」
 その場を去るエレノアの背に、ジェラルドは「待て、まだ話の続きが……」と言いかけていたが、それらは近衛騎士らによってとめられた。
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