【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
「では、案内のものが来るまで、少々お待ちいただきます」

 最後にそう言い残して、神官は部屋を出て行った。

(案内役を務めるのは、ロザリアさんだそうね……)

 『豊穣の女神』の元へ『依り代』を案内するのは、女性と決まっている。

 それは『豊穣の女神』のテリトリーに入るにあたって、異性では不敬に値すると言われている……から、だそうだ。

 ここに関してはいろいろとややこしくて、簡単には説明できないとサイラスは言っていた。

(ここら辺は、専門の人が詳しいらしいけれど……それって、多分旦那様の古いご友人のことよね……)

 なんて思ったところで、私がそのお人に会えることはないのだろう。遠いところに住まわれているようだし。

 時計の針がちくたくと動く。一分一秒が、私にはやたらと長く感じられた。

 しんと静まり返った部屋の中、今までのことを思い出す。

 辛いことのほうが多かった。それでも、幸せなこともあった。嬉しいことだってあった。

 なによりも――居場所を手に入れることが出来た。

「――頑張りましょう」

 自分を鼓舞するためにそう呟けば、部屋の扉がノックされる。

 返事をすれば、扉が開いてロザリアさんが顔を見せた。

「……ご案内させていただきます」

 ロザリアさんがそう言って、私のほうに近づいて手を差し出す。

 その手に自らの手を重ねて、私はロザリアさんに連れられるがままに神殿のほうへと足を向けた。

 移動中は、無言だった。それに、神殿のほうから時折大きな音が聞こえる以外は、ずっと無音。

 私とロザリアさんの足音だけが聞こえる空間。彼女の横顔を見ることもなく、私はじっと前を見据える。

「『依り代』さまを、どうぞ中へ」

 神殿の前に立つ神官長が、私とロザリアさんを中へと促す。

 少しの段差を上って、神殿の中へと入り、儀式が行われる間の前で立ち止まった。
< 134 / 156 >

この作品をシェア

pagetop