【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
(サイラスか?)

 奴ならば、急用があれば深夜だろうが早朝だろうが、俺の元を訪れる。もちろん、執務室にいるときだけ、だが。

「いいぞ」

 資料に視線を落としながら、俺は端的に返事をする。すると、「失礼いたします」という声が聞こえてきた。

 ……これは、サイラスのものじゃない。

(というか、この声は……)

 扉が開く音に合わせて、ハッと顔を上げる。そうすれば、そこには寝間着に身を包んだシェリルがいた。

 彼女は執務室にゆっくりと入ってくると、俺の目をまっすぐに見つめる。

「……夜遅くに、申し訳ございません」
「い、や」

 シェリルが頭を下げてそう言ってくる。……何だろうか。何処となく、よそよそしい。

「少し、旦那様とお話ししたくなりました」
「そう、か。じゃあ、そこに座ってくれ」

 執務室にある応接用のソファーを指さして、俺はそう言う。シェリルは、何も言わずにそこに腰を下ろした。

「こんな夜遅くまで、ご苦労様です」

 シェリルが俺のことを見て、そう言う。

「きっと、とても大変なのですよね」

 ……違う。今やっている仕事は、納期なんてずっと先だ。……ただ。

「……眠れないんだ」

 俺の口から出たその言葉は、自分でも驚くほどに弱々しかった。

 シェリルが、目を見開いたのがわかる。

「どうにも、最近不眠が続いていてな」
「そうなの、ですか」
「あぁ。……やっぱり、不安なことが多いと、な」

 苦笑を浮かべてシェリルを見つめる。……彼女は、何とも言えない表情を浮かべていた。

「ところで、今日のこと、なんだが」
「……はい」
「アネットの言ったことは、気にしないでくれ」

 とりあえず、これだけは伝えておかなくては。その一心で、俺はそんな言葉を口に出す。

「シェリルが財産目当てだとか。そんなことを思っているのは、あいつだけだ。使用人たちも、シェリルの味方だ」
「……はい」
「俺は、そんなこと真に受けないから」

 シェリルの隣に腰を下ろして、俺がそう言う。……その瞬間、シェリルの目から水滴が落ちてきた。

 ……え。
< 50 / 156 >

この作品をシェア

pagetop