【完結】年の差十五の旦那様Ⅲ~義妹に婚約者を奪われ、冷酷な辺境伯の元に追いやられましたが、毎日幸せです!~
「私が彼らのことを大切なように、この国の人たちも、誰かを大切に思っています」
「……つまり、あなたは誰一人として悲しませたくないと?」
「そういうお綺麗な感情じゃないと思います。ただ……うん、私は、悲しみたくないんです」

 もしも、私がこの儀式に臨まなかったとして。それは誰かの不幸になる。その不幸を知った私は、罪悪感に苛まれてしまうと思う。

 結局、そういうことなんだと思う。私は、自分の心を守りたいだけ……ということに、しておきたい。

「誰かが悲しむと巡り巡って私のほうに来ると思うんです。これは、いわば保身です」
「……ふぅん」
「ただ、頑張れるのはやっぱり大切な人たちがいるからですね」

 苦笑を浮かべてそう言えば、アネット様は露骨にため息をついた。

 その後、私の肩に手を置く。驚いて、彼女を見つめる。

「あなた、とんでもなくお人好しだわ。……まるで、あの子みたい」
「……アネット様?」
「あぁ、本当に私がばかだったわ。初めに感じたことは、真実だったのね」

 なにかを呟きつつ、アネット様が首を横に振る。その態度を怪訝に思っていれば、アネット様は私の顔に自身のお顔をぐっと近づけてきた。

「あなたは、出来るわ。立派だわ」
「……え」

 彼女の言葉の意味が、すぐには理解できなかった。きょとんとする私を見て、アネット様はくすくすと笑った。

「今までのこと、謝罪するわ。ごめんなさい」

 アネット様が頭を下げて、そう言う。

 私はぱちぱちと目を瞬かせた。

「なにを言っても言い訳になる。だから、深くは言わない。……ただ、あなただったら心配する必要はなさそうね」
「……アネット様」

 そこまで言ったアネット様は、ふっと人差し指を空に向ける。瞬間、はらりと花弁が降ってくる。

 それらは次から次へと降ってくる。一種の嵐のようだと思う。

「これは、私からの餞別よ。……頑張りなさい。私は、あなたを応援しておくから」

 はらはらと降ってくる花弁には、確かな魔力がこもっている。……触れていて、わかる。温かくて、心地いい魔力だ。

「……これ」

 花弁に触れると、それらは光となって消えていく。それと同時に、私の中に魔力が溢れてくるのがわかった。

 ……これは、魔力を移動させる魔法なのだ。それを、私は悟る。
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