アステル! ~星成士たちとキラメキの祝祭~
 そして、あっというまに、一か月がたった。
 宝井中学校、星見祭。
 外部のお客さんも呼んで、今年も盛大に行われる。
 校舎中がさまざまなかたちの星で飾りつけられ、多種多様なクラス展示や、それぞれの部活動によって出店されている屋台もある。
 午前中、わたしは柚希と、クラス出し物である、『スーパーボールすくい』の受付をすることになっている。
 しかし、出し物が他と比べて地味だからか、ほとんどお客さんが来ない。
 隣に座る柚希が、つまらなそうに、机に頬杖をついた。
「だからいったんだよ~。スーパーボールなんて、子どもしか喜ばないんじゃないかって! なのに、男子たちがごり押しするから~」
 教室内を見ると、暇を持てあました男子たちは、さっそく雑談をはじめている。
「どーせ、忙しくしたくないから、あえて地味な出し物にしたってことなんだろうけどさ! こんなのんびりしてるの、うちらのクラスだけだよ!」
「だ、だね……」
「ここにいたのか、歌仙」
 顔をあげて、わたしはびっくりした。
「えっ、なんで竜胆先輩がここに」
 柚希も、とつぜん現れた竜胆先輩に、目をぱちくりさせている。
「竜胆先輩。えっと、スーパーボールすくいですか……?」
 そんなわけないと思いつつも、いちおう聞いてみる。
「――久しぶりだ。学校に来るの」
「は、はあ……」
「いっしょに回らないか?」
「えっ、先輩とですか?」
「だめか?」
 そんなさみしそうな顔で誘われても、困るんですけど。
 どうして竜胆先輩、わたしと星見祭を回りたいんだろう?
 ……あんなことがあったのに。
「行っておいでよ、陽菜! どうせ暇なんだしさ~!」
 すると、柚希が目を輝かせながら、親指を立ててきた。
「えっ。いやいや、だって店番が」
「『星見』はね、通常はクライマックスの夕方からだけど、屋上はいまからでも空いてるんだよ。いまの屋上、穴場だよ♡ 思い出、作って来なって!」
「で、でも」
「こんなイケメンに誘われたのに、もったいないよ~♡ ここにいない、佐々波くんがわるいんだって。気を遣うことないよ!」
 ニヤニヤしながら、耳元でささやいてくる、柚希。
 な、なんで燐くんの名前が出てくるの……?
 柚希に背中をぐいぐい押され、わたしは竜胆先輩と星見祭を回ることになってしまった。

 三階は、ほとんどが三年生の教室だ。
 たぶん、竜胆先輩の教室もあると思うんだけど、誰も竜胆先輩のことを振り返らない。
 今年は一度も、登校してないから、なのはわかるけど、一年生や二年生の途中までは登校していたみたいだし、顔見知りくらいいるはずだけどなあ。
「竜胆先輩……。本気でわたしと星見祭を回るつもりなんですか?」
「おれは、そのつもりだ」
「祝祭のこと、忘れてないですよね」
「忘れるはずがない。でも……おれはもう、おまえと戦うつもりはない」
 ジッと、わたしを見つめる竜胆先輩。
 そんなに見られると、居心地がわるい。
「戦うつもりがないって、ほんとうですか?」
「ああ」
「なんで急に、そんな考えに……?」
「それは……」
 竜胆先輩が、真剣な顔で、つぶやいた。
「――再会できたから」
 耳を澄ませたつもりだったけれど、竜胆先輩の言葉は、星見祭の雑踏でかき消えてしまった。
 もう一度、いってもらおうとしたけれど、竜胆先輩が「あっ」と声をあげたので、話は流れてしまった。
「歌仙。あれ、いっしょにやろう」
「あれって?」
 竜胆先輩が指さしていたのは、『星の砂ひろい』という出し物だった。
 大きな透明ケースに砂が敷き詰められている。
 そのなかに、きれいな美しい星の形をした砂が混ぜられているようだ。
 取ったものはビンにつめて、持ち帰れるらしい。
「星のかたちをした砂かあ。すごくきれい」
 すると、受付にいた三年生の先輩が興奮気味に立ちあがり、待ちかねたように説明してくれる。
「星の砂っていうけど、その正体は、小さな生き物の殻なんだ。死んで殻だけ残ったものが、長い年月をかけ、打ち寄せる波によって、美しく磨かれる。そして、ようやく星の砂と呼ばれるものになるんだよ」
「へえ」
 先輩が透明ケースのなかをなで、手のひらに砂をくっつけた。
「手の平を砂につけるんだ。くっついてきた砂のなかに星のかたちの砂があるはずだよ。それが、いちばん簡単に星の砂を見つける方法」
「先輩、くわしいんですね」
「ふふ。理科の成績だけは、満点なんだ」
 へらっと笑った先輩は、小さなビンをふたつ、渡してくれた。
「どうぞ、やってみて」
「ありがとうございます」
「気のすむまでやってくれていいから。あんまり、お客さんが来ないから暇してるんだ」
 そういって先輩は、受付のほうへ戻っていった。
 いい出し物なのに、『星の砂ひろい』も客足がないんだ。
 竜胆先輩に小ビンを渡すと、ぼんやりとした顔で受け取った。
 わたしは竜胆先輩といっしょに、透明ケースの前にしゃがみこんだ。
「竜胆先輩、説明聞いてました?」
「あんまり。だから、歌仙が手本を見せてくれ。おれは、そのまねをするから」
 さっきから、ぼーっとしている竜胆先輩。
 わたしは先輩によく見えるように角度を考えながら、砂の上に手の平を乗せた。
 ひっついてきた砂のなかに、いくつか、星のかたちをした砂がついている。
 それを取って、小さなビンのなかに入れた。
 ビンのそこに溜まっていく星のかたちの砂は、ながめているだけで、わくわくした気分になる。
「これなら、すぐに小ビンいっぱいになりますね」
「……このなかには、何百年もかけて磨かれて、ここにきた星の砂もいるんだな」
「……先輩。星の砂の話、ちゃんと聞いてたんですね」
「そこだけだ。ほとんど、聞いてない。たくさんの数えきれない砂のなかから、たった一粒の星の砂を探すゲームだと思いこんでたから、聞いてなかった」
 冷たい瞳をして、透明ケースのなかを見つめている竜胆先輩。
 それは、このケースのなかの世界のことを、まるで自分に重ねているかのようないい方だった。
「そんなゲームだったら、わたしはやらないですよ」
「そうだな。そのほうがいい」
 竜胆先輩はアステルになった恋人を、次元を超えて探しているっていってたっけ。
 どこにいるのかわからない、たったひとりの恋人を探すって、信じられないくらい……大変だよね。
「あっ、見てくださいよ。この星の砂。他よりも、ちょっと大きい」
「なら、お前のビンに入れるといい」
「いえ。先輩にあげますよ」
 そういって、わたしは見つけた特別な星の砂を、先輩の小ビンのなかに入れた。
 星の砂は、小ビンのなかで、カラッと涼やかな音をたて、転がった。
「……いいのか?」
「はい。今日の記念に」
「……ありがとう。大切にする」
 藤色の天然パーマを耳にかけ、竜胆先輩は照れくさそうに笑った。
 あんな戦いをしたのに、いまはこんな時間を過ごしているなんて、信じられないな。
 でも、少しだけ竜胆先輩のことをわかったかもしれない。
 この人は、ほんとうは優しい人なんだって。

 竜胆先輩と、小ビンを星の砂でいっぱいにしたころ、ハッとして三年の教室の時計を確認する。
 そろそろ、クラスの出し物にもどったほうがいい時間になっている。
「先輩、わたし、戻りますね」
「……もうか?」
「いちおう、クラスの受付の仕事、サボってきてるんで」
「そうか……」
 さみしそうに、うなだれる竜胆先輩。
 なんだか、小動物がしょんぼりしているように見えて、ちょっと罪悪感。
「星の砂、わたしも大切にします」
「……おれもだ。付き合ってくれて、ありがとう」
 眉を下げながらも、まぶしそうに微笑む竜胆先輩に、わたしもつられて笑った。
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