セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
 そのまま五分ほどが経っただろうか。すすり泣く声が止み、体の震えもなくなっている。

「落ち着きましたか?」

 声をかけてみると彼女はこくりと頷いてくれる。

 今ならば冷静に話せるだろうと、志歩は続けて話しかける。

「あの、本当に申し訳ないのですが、あなたのことを覚えていなくて……」

 志歩のその言葉に彼女はまた小さく頷いている。

「記憶を、失くされているのよね」

 記憶喪失であることを、この人が知っていることに驚く。

「っ、そう、ですね。仰る通りです」

 なぜ知っているのだろうか。その疑問が脳内に浮かぶも、隣の彼女が話し始めたことで、すぐに疑問はどこかへと追いやられた。

「私は八重沢恵美理と申します」
「八重沢さん……」

 口に出して音の響きを確かめても、今ある記憶にその名は存在しない。

「すみません、思い出せなくて」
「いえ、それも当然だと思います。一度しかお会いしたことありませんから」
「えっ、一度だけですか?」

 目を見開いて訊き返す。先ほどの状態からして、もっと深い関わりがあるのだと思っていた。だが、恵美理は志歩の問いに頷いている。

「はい、一度だけ。清塚グループ主催のパーティーでお会いしました」
「パーティー……?」
「清塚会長の誕生パーティーです」

 会長と聞いて、悟の話を思い出す。

「あ、久枝さんの?」
「そうです。そこで、悟さんから紹介を……っ」

 恵美理はまた目に涙を浮かべ始める。

 その様子を見れば、やはりただパーティーで会っただけの間柄だとは思えない。二人に何かあったのだと確信する。
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