セカンドマリッジ ~病室で目覚めたら、夫と名乗るイケメン社長との激甘夫婦生活が始まりました~
「少し移動しましょうか」

 もう少し目立たない端の方へ移動しようと目線で合図すれば、女性はわずかに聞き取れるくらいの小さな声でつぶやく。

「……駐車場に車が」

 女性がちらりと視線を向けた方向は駐車場。そこに止めてある車に移動したいということだろう。

 護衛の方に視線を向け、どうしようかと考える。見えにくい場所に移動するのはどうかと思いつつも、敷地内の駐車場ならば問題はないだろうと承諾する。

「あー……わかりました。行きましょう」

 女性はまだ涙を流しながら、ゆっくりとした足取りで駐車場へと歩き出す。志歩もそれに従ってついていけば、ごく普通の軽自動車の前で彼女が足を止めた。

 彼女はその車の鍵を開け、後部座席に乗り込んでいる。志歩はドアの横に立って、女性の様子を窺うが、目線で中に入るよう促され、迷いながらも彼女の横に乗り込んだ。ドアはほかの車の邪魔にならない程度に開けたままにしている。

 未だ泣き止まぬ女性に志歩は鞄からティッシュペーパーを取り出して、彼女に差し出す。

「どうぞ」
「すみません」

 女性は素直にティッシュペーパーを受け取ると、それを目に当て、すすり泣く。こんなに泣かせてしまうほど、この人に何かひどいことをしてしまったのだろうかと不安になる。

 まさかここにきて、記憶がないことに支障が出るとは思いもしなかった。

 何か声をかけてやりたいが、事情がわからない以上、とりあえずは見守るしかない。

 志歩は横で泣き続ける女性が落ち着くまで、ただただ静かに隣に座っていた。
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