悪辣外科医、契約妻に狂おしいほどの愛を尽くす【極上の悪い男シリーズ】
「手術数で言えばな。だが、純粋に技術なら引けを取らないだろう。なにより体力で勝てないよ。この歳で十時間以上の手術をこなすのはもう無理だ」

「なにをおっしゃいますか。先日も難易度の高い手術をやり遂げたじゃありませんか」

「まあ、執刀できるのはせいぜいあと五年だな。後進に道を譲って、私は指導に回るよ」

 五十代中盤あたりから、深夜の緊急コールや長時間の手術が体力的に厳しいと言い出した父。体力づくりを心がけてはいるみたいだけれど、歳には勝てないようだ。

 なにしろ、脳の手術は非常に繊細で、難易度の高い手術ほど長時間に及ぶ。体力と高い集中力が要求される。

 本人はすぐにでもメスを置いて後進の育成に回りたいらしいのだが、なにぶん人手不足で、今も仕方がなく執刀を任されている状況。早く自分の後釜を育てたいらしい。

「正直、若手で君ほど信頼できる医師はいないよ。手術の腕もだが、人間性も」

 ようやく後釜候補が見つかってホッとしているのだろう。

 父があまりにも嬉しそうだから、私はナイフとフォークを手にしたまま、くすりと笑ってしまった。

「そんなに褒めるお父さん、初めて見た。よかったね、後を継いでくれる人が見つかって」

 すると父は豪快に笑った。

「ああ。それにほら、璃子もいつかは結婚するだろう? 義理の息子が武凪くんのような男なら、父さんも心置きなく娘を預けられる」

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