透明なエンゲージリング
「母さんとスケートしたり、友達とアイスホッケーのチームに入ったり、毎日楽しかった。でもある時、母さんが知らないおじさんを家に連れて来たんだ」

母親は家に連れて来た男性と結婚するのだと話した。リオンにもお父さんができると嬉しそうに母親は言っていたものの、リオンの心は複雑だった。今まで父親という存在を知らないリオンにとって、いきなり現れた男性を「お父さん」とは呼べなかった。

しかし、幸せそうに笑う母親にリオンは何も言うことができなかった。表面上は笑みを浮かべて二人が結ばれることを祝福したものの、心の中にはいつも重いものがあった。

母親が男性と結婚してすぐ、男性がシカゴに転勤することが決まった。そしてリオンも住み慣れたミネソタからシカゴへやって来たのだ。

「おじさんはすごく優しいんだ。俺のこと気にかけてくれてる。仕事忙しいのに母さんのために料理作ったりしてさ。……でも、家族ってどうしても思えないんだ」

シカゴの高校も、街並みも、新しい家も、リオンは全て夢で見た景色であってほしいと思ってしまう。気が付けば拳を握り締めていた。大きな手に小さな手が重なる。
< 6 / 14 >

この作品をシェア

pagetop