悪女、チャレンジします!

変わり始める距離

週が明けた月曜日。

教室に入るなり、常盤君が険しい顔をして私のそばにきた。

「おはよう、平井」

「お、おはよう。常盤君」

「何ビクッとしているんだよ」

それだけ言ってスタスタと自分の席に戻って行った。

何だったんだろう、今の。

ちょっとだけ昔みたいに怖い感じがしたのもあってびっくりしちゃった。

「あれあれ、どうしたんですか?」

「なーに? 二人もしかしていい感じ?」

「ちょっと、やめてよ。そういうのじゃないから」

さっきのところ、ばっちり咲良と姫華に目撃されちゃった!

恥ずかしいやら何やらでてんやわんやだよ。

「私と常盤君はただの生徒会仲間だから!」

残念だけど、今はそう。

常盤君にとって私はぜんっっっっぜん恋愛対象じゃない。

「そんな距離感に見えなかったけどな」

「冗談もほどほどにして。変な誤解されたくないの」

広報のアピールもあって常盤君派は増えている。

ここでもしも私と常盤君が付き合っているなんてデマが流れたら……。

特大スキャンダルまっしぐらだよ。

「でも、舞奈はずっと常盤派だったでしょ。常盤君と一緒にいてドキドキしたりとか、ないの?」

咲良が興味津々な顔をして聞いてくる。

二人は私がずっと常盤派ってことは知っているけど、常盤君に恋をしているとは思ってない。

常盤君と一色君は校内のいわばアイドルのような存在だ。

常盤君に恋をしていることは二人にも言えない秘密なんだよね。

「そういうのはないかな。あくまでもさ、部活というか仕事だから」

ごめんね。嘘ついちゃった。

本当はドキドキしっぱなし。

常盤君のそばにいてドキドキするなってほうが無理な話だよ。

「すごいね、プロフェッショナルだ」

「いつも隣にいるんでしょ? 私だったらドキドキしちゃいますわ」

「姫華、一色君派だったじゃん」

「今は常盤君派に変わりましたの。ワイルドなリーダーもかっこいいですわ」

「ずるーい。私も常盤君派にしようかな」

咲良と姫華が笑いながら話している。

少し前の私なら、一緒に笑って話の中に混じれたのに。

今の私は、二人に合わせてうまく笑えない。

常盤君の素顔も一色君の素顔を知っている。

二人ともすごく優しくていい人だ。

生徒会に入って二人に近づきすぎた。

だからこそ。ただ無責任にきゃーきゃーはしゃげない。

「私たち、全員ライバルだ」

「常盤君は譲らないですわ」

咲良と姫華の好きと、私の好きは違う。

そう思う。

だけど。

常盤君からしたら、同じに見えるんだろうな。

咲良と姫華に無理して笑うのが、今の私にできる精一杯だった。
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