悪女、チャレンジします!
金曜日の放課後。四時半を過ぎたところで今日の生徒会活動が終わった。

校内新聞は週に一度、水曜日に更新している。

昨日新しい新聞を発行したばかりなのに、もう次に載せる記事のことを考えている。

この仕事、思ったよりも大変だ。

桃井さんたちは花壇の事件の後、生徒会をやめた。

少しだけ部屋の中は広くなったけどまだまだ特別枠に対する風当たりは強い。

私が校内新聞の担当なこともよく思っていない人は多いんだよね。

「平井、まだ残るのか」

「うん。次の新聞に何を書くか、まだ決まってなくて」

「あんまり無理するなよ」

「じゃあね、平井さん。お疲れ」

常盤君と塩田君が生徒会室を出ていく。

……もう少しくらい、一緒に残ってくれてもいいのに。

広報の仕事は好きだけど、常盤君のイメージアップのためにやっているのに。

人気が出てきたら、私のことなんてどうでもよくなっちゃったのかな。

なんて不満を言っても何も解決しない。

この仕事を選んだのは自分だ。

最初に生徒会に誘ってくれたのは常盤君だけど自分の意志で続けることを決めた。

常盤君に生徒会長になってほしいと思うのも、誰かに頼まれたわけじゃない。

だけど少しくらい私のことを見てくれてもいいのになって思うのはわがままなのかな?

「舞奈ちゃん、お疲れさま」

顔を上げると一色君がニコッと笑顔でそばに立っていた。

「舞奈ちゃんの校内新聞、すごく人気みたいだね」

「いえいえ、そんなことないですよ」

「僕のクラスでも校内新聞のことは話題になっているよ。常盤のことが多い気もするけどね」

やっぱりバレている……。

私のこと怒っている?

「僕ももっと舞奈ちゃんに記事を書いてもらえるように頑張らないと」

周りを見ると、生徒会室には私と一色君の二人だけになっていた。

「クラスでも常盤とはよく話たりするの?」

「いや、あんまり話はしないですよ」

「そうなんだ。ってか敬語なんてやめてよ。僕たち同い年でしょ?」
「でも生徒会歴は先輩ですから」

「常盤にはタメ口でしょ? そんなの関係ないよ」

一色君のキラキラした笑顔でそう言われたら、何も言い返すことはできない。

「わかりました。……いや、わかった、よ」

「そう。そんな感じ」

敬語をやめたせいか気持ちが軽くなる。

そういえば、一色君と二人で話すことって今までなかったかも。

話が面白いし、こっちの話もちゃんと聞いてくれる。

それにいつも笑みを浮かべているからいつの間にか楽しい気持ちになっちゃうんだよね。

今、一色君と話しているのがすごく楽しい。

常盤君のライバルなのに。

必死に戦っている敵、なのに。

こんなことしてていいのかな?

「舞奈ちゃんと話すの、すごく楽しいな」

一色君が私の顔を見て、ニコッと笑う。

校内一のキラキラの笑顔を私は今独占している。

なんでだろう、胸がざわつく。

私が好きなのは常盤君のはずなのに……。

「あの、今日はそろそろ帰ります」

「そっか。お疲れさま。気をつけて帰るんだよ」

一色君は誰にだって優しい。

それは知ってたけど。

知っててもそんなに優しくされたらドキドキしちゃうよ。

「舞奈ちゃんが生徒会に入ってくれてすごく助かるよ。これからも力を貸してね」

「はい、わかりました」

「わかりましたじゃない。わかった、でしょ?」

一色君はとってもずるい。

常盤君と違う意味で、すごくずるい。

こりゃ人気が出るわけだ。

「わかった。じゃあね、一色君」

生徒会室を飛び出すと、慌てたせいでガチャンと大きな音を立ててドアが閉まった。

かっこよくて、優しくて、そして人に寄り添うことができる。

一色君なら特別枠や普通枠に関係なく、この学校をよくしてくれるかも……。

違う、そうじゃない。

私は常盤君を生徒会長にするんだ。

頭の中で思い浮かぶ常盤君は険しい顔をしたり、意地悪そうに笑っている。

常盤君は私のことを生徒会長になるためのサポーターとしか思ってない。

常盤君のことは好きだけど生徒会長は一色君の方がよかったりして……。

おっと、私ったら何考えているんだろう。

少し疲れてるのかな。

ふと、さっき生徒会室を出た時のことを思い出す。

ドアを開けた時の感触がやたらと軽かった気がする。

あのドア、閉めるときにちゃんとしないと隙間が空いちゃうんだよね。

そのおかげで常盤君と塩田君の会話が聞こえてきたんだけど。

あれ。ってことは……。

さっき一色君と二人で話していた時も、ドアが開いていたのかな。

まずい。誰かに聞かれてたらどうしよう?

で、でも変なことは話してないし。

それに彼氏がいるわけじゃないから、浮気とかでもないし。

同じ部活のメンバーと、部室で話すのは悪いことじゃないもんね。

そもそも、こんな時間に誰も話なんか聞いてないよね。

そう自分に言い聞かせながら、思いっきり地面を蹴って玄関を飛び出した。
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