身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 カイゼルは優しくルーゼの実をもぐと、ポケットから取り出した小剣の刃で二つに切り分け、皮をむくと、半分を差し出してくる。

「かぶりつくのが一番うまいぞ」

 甘酸っぱい香りを放つ実を差し出され、エリシアは両手でそっと受け取ると、はしたなくないだろうかと迷いながらその実にかぶりついた。

「あ、……甘いです」

 エリシアは驚いて顔をあげた。酸味はあるが、覚えている味よりもずっと甘かった。

「グスタフが異国の土で育てれば甘くなると教えてくれてな。そうか。そんなに驚くほど甘いか」
「本当に。私……、こんなにも甘いルーゼは初めてです」

 エリシアはもうひと口、ぱくりとかみついた。ほおが落ちそうになるぐらい美味しい。

「カイゼル殿下は食べないんですか?」

 もう半分の実を握っているカイゼルに尋ねる。彼は目を細めてその実を見つめたあと、そのままこちらへ視線を移す。

「そっちの方がうまそうに見える。俺にも食わせろ」

 カイゼルが身をかがめる。

「私の……ですか? でもこれは食べかけで……」

(まったく同じ実なのに。おかしなことを言うのだわ)

 エリシアが首をかしげたとき、カイゼルに手首をつかまれて、彼の顔がルーゼの実を通り越す。

「え……」

 驚いて薄く開いた唇に、カイゼルの唇が重なった。甘くも酸っぱくもない、肉質のある柔らかな感触に、エリシアは何度もまばたきをした。

「確かに、こんなにも甘かったかな」

 カイゼルはつぶやくと、ぼう然とするエリシアをおかしそうに見つめる。

「もっと味わいたい気分だが、ビクターひとりに任せておくわけにもいかない。さあ、執務室へ戻ろうか」

 カイゼルに手を引かれて、エリシアは無言でついていく。今になってほおが熱くなってくるから、執務室にたどり着くまでにおさまるだろうかと一抹の不安を覚えるのだった。
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