身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
「ベルナンさんって?」

 聞いたことのない名前だった。

「王宮に長く仕える薬師ですよ。老薬師のベルナンといえば、かなり高名な方として王都では有名です」

 ビクターがそう教えてくれる。

「その、ベルナンさんはアルナがどんな風に関係しているとおっしゃってるんですか?」
「うむ。アルナ水に入れたルーゼの香水が還炎熱に効いたとするなら、アルナがルーゼに含まれた成分を増幅させる効果があるのではないかと言っていた。しかし、それを確認するには一つ問題があってな」
「それは?」
「アルナ以外の香水の原料となるものが、その作用を果たしている可能性が否定できないのだ」

 カイゼルは苦々しい表情をする。

(ルーゼとアルナを混ぜ合わせればいいという単純なものでもないのね)

「では、成分の効能を一つずつ調べるんですか?」
「そうだ。その作業をこれからやっていく。まず、説明しておくが、ルーゼの香水に使われている原料は四つ。ルーゼの皮に、アルナの樹液、リュミラの薬草、サリナンの木の根だ。これらの組み合わせで作った薬液をすべて還炎熱の患者に試してみる」

 エリシアも香水の原料となる植物の名前は覚えていた。ルーゼ以外はどれも比較的たやすく手に入るもので、用意するのは難しくないだろうとは思っていたが、香水を作るには時間がかかりそうだった。しかし、カイゼルは香水を作らずに、還炎熱に効果のある方法を探そうとしているらしい。

「試すって……、大変な作業だわ」

 気が遠くなりそうな顔をすると、カイゼルは安心させるような優しい笑みを見せる。

(やだ……。なんでそんなに柔らかい顔をするのかしら)

 ほおが赤くなりそうで、気まずさに目をそらすと、カイゼルはエリシアの腰に腕を回しながら、ビクターへ声をかける。

「ベルナンから試しの薬液の準備が整ったと連絡が来た。すでに、療養所の患者には経緯を話してある。みな、協力してくれるそうだ」
「何日もかかる作業になりますが、本当にエリシアさんもお連れするのですか?」

 心配そうにビクターは言うが、カイゼルはひるむことなく声高らかに答えた。

「聖女が来たとあれば、患者も喜ぶであろう」
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