身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
 エリシアは奥の席に隙間を見つけると、そこに力なく座り込んだ。

(もう大丈夫。大丈夫だから)

 心の中で何度も自身に言い聞かせ、震えながら身を丸めていると、陽気な声が聞こえてきて、エリシアはようやく周囲へ目を向ける余裕が出てきた。

 乗客のほとんどは、フェルナ村へ物を売りに来た商人のようだった。彼らは顔見知りなのか、和気あいあいと儲け話に花を咲かせていたが、エリシアはどこか遠い世界の話を聞いているような気分になった。

 見慣れたフェルナ村がだんだんと遠のいていき、あっという間に馬車は林の中を進んだ。硬い座席に腰を落ち着けながら、小さなバッグを抱きしめていると、隣に座る年配の女が話しかけてくる。

「王都へ行くのは初めてかい?」
「……いえ、昔に一度だけ」

 エリシアが小さく答えると、女は優しいまなざしでうなずいた。おびえるエリシアを心配して声をかけてくれたようだ。

「最近の王都は騒がしいよ。王太子殿下の弟君が、ご病気で大変らしくてねぇ」
「本当ですか……?」

 エリシアが思わず聞き返すと、向かいに座っていたひげの男が話に加わった。

「うわさ話でしかないが、本当だろうよ。まだお小さいルイ殿下が、ずっと病で伏せっておられると、王都はピリピリしてるのさ」
「そうそう。最近は、宮殿の人間が聖女様のいるノアム大聖堂に頻繁に出入りしているそうだよ」

 ノアム大聖堂はまさしく、今からエリシアが訪ねようと思っている場所だ。緊張からか、手のひらにじっとりと汗が浮かんでくる。大聖堂には聖女マザー・リビアがいる。彼女の奇跡の力を求めて、人々は王都に集まるというが、王族すらその加護を求めるとは、ただならない状況だろう。
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