身代わり聖女になったら、なぜか王太子に溺愛されてます!?
***


 鳥のさえずりに耳が刺激され、ゆっくりとまぶたをあげると、ぼんやりとした視界の中に黒い影がゆれていた。

 幾度かまばたきを繰り返し、ようやくそれが、窓から差し込む光を受けてつやつやと輝く髪だと気づいたとき、カイゼルは手のひらにおさめられた柔らかな手に気づいた。

(なんだ……?)

 驚いて上体を起こしたカイゼルは、ますます自身の姿をいぶかしんだ。めざましく動き出す頭の中に、過去が走馬灯のように駆け巡っていく。

「たしか、俺はあの娘と……」

(聖女と偽って宮殿に入り込んだエリシアを問い詰めていたはず……)

 しかし、頭がズキリと痛んだあとの記憶がはっきりしない。

 なぜ、自室にいるのか。しかも、普段は着ないナイトローブを着て。その上、女の手を握っている。

 カイゼルはベッドにうつ伏せて眠る女の顔をのぞき込み、ハッと息を飲む。エリシアだった。

(なぜ、エリシアが俺の部屋に?)

 スッと鼻筋が通った白い肌の上に、長いまつげが伏せている。小さな寝息は規則正しく、すっかり眠りこけているようだ。

「……のんきなものだ」

 カイゼルはベッドを降りると、枕元にある果物に気づいた。さまざまな果物が切り分けてあり、甘い香りを放っている。皿の上のそれをひと切れつかみ、口の中に放り込む。すっかり渇いていたのどが潤い、カサカサの唇がしっとりする。途端に、お腹がぐるぐると動く。

「腹が減ったな」
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