それは麻薬のような愛だった
「シャワーありがとう。今日はこのまま帰るね」
先程の衝撃で忘れかけたが、ここに来てまた頭の痛みが再発しだしていた。
早く家に帰って休みたい。色々と疲れた。
伊澄の返事も待たずに雫はジャケットを持って玄関に向かえば、伊澄も後ろを着いてきた。
「送る」
「え?いいよ。どうしたの急に」
一度も言われた事のない台詞に苦笑いを返す。
「じゃあね」
そう言ってドアノブに手をかければ、その手を上から握られた。そしてもう一方の手はドアに触れ、囲い込まれるような体勢になった。
顔を上げると伊澄の顔が降ってきて、唇が重なりそのままドアに背を押し付けられた。
「んっ…」
抵抗もままならず何度か角度を変えられ、舌を交える。間も無くして名残惜しそうに唇が離れると、雫は伊澄の身体を押した。
「…離して、いっちゃん」
「しず、」
「またね」
今度はそのまま外に出る。
肌寒かった風は少し生ぬるく、これからやってくる夏の気配を微かに漂わせていた。
未だ頭の奥はひどく痛み、去り際に見せた伊澄の物言いたげな顔に後ろ髪が引かれた。だが今は、何も考えたくはない。
——今日の事は忘れよう。
キスマークも、いつもと様子の違う伊澄も、全部自分の勘違いだ。
そう何度も自分に言い聞かせ、雫は自宅へ向かう為に足を前へと踏み出した。