それは麻薬のような愛だった
それから1週間が経過したが、伊澄とその週に会うことは無かった。
どうしても伊澄と会う気になれず、会えないかと連絡が来たが出張だと偽りを告げて連絡を絶った。雫の中で、先日の未だ動揺を処理しきれていなかった。
胸元の所有印は大分薄まり、本当に存在していたのかすら分からないほどになった。けれど毎日の入浴でそれを目にする度、言いようのない感情が湧き上がる。
その度に怖くなり目を逸らすのだが、それでも事実は変わらない。
胸元にそっと手を当てる。雫の胸は、久しい鼓動で揺れていた。
「杜川」
閑散期に入りようやく事務所の緊迫感も軽減され、雫にかけられる声も余裕のあるものへと変わった。
名前を呼ばれ返事をしながら振り返れば、雫のチームのリーダーである上司が立っていた。
「悪いが今日、カガヤソフトさんの訪問行ってきてくれないか?」
「カガヤソフトさんって…小林さんの担当のところですよね?」
「そうだけど、小林から体調不良で休むって連絡があったんだ。経営状況は共有してるし、この時期の訪問は顔見せ程度のもんだからわざわざ予定取り直すのも面倒でな。頼めるか?」
「承知しました。時間は何時からですか?」
「11時だ。悪いけど任せた」
片手を上げて去っていく上司を見送り、雫は早速訪問先の企業の情報を開く。会計ソフトから先月までの月次報告を拾い、財務状況や経営状態の確認を行う。
美波も仕事はしっかりとしているし監査も通っている為特に気になるところはなく、それほど気負わずに向かえそうだと肩をなで下ろした。