それは麻薬のような愛だった



このままで。それはセフレの事を指しているのか、はたまた伊澄以外へのセックス恐怖症を指しているのか。


このままで良いとか悪いとか、考えた事もなかった。雫の中では伊澄の誘いに応じるのは息をするように当然になっていた。

拒絶するのはとても簡単だ。「もう会いたくない、やめたい」そうひとこと言えばいい。言ったところできっと伊澄は尚も喰らいつくような真似はしない。

けれどこの後に及んでも、それを伊澄に伝えようとすら思わないのは…一体、どうしてなんだろう。


「……」


瞬きを忘れ黙り込む雫に、颯人は再びスプーンを手に取りながら呆れたように言った。


「まあ、どうするかは雫が決める事だから俺が口出すことでも無いけどさ」


けど、と颯人はすっかり大人びた、穏やかな表情で続ける。


「話してみたら意外とスッキリする事もあるもんだよ。今の俺みたいにね」

「颯人…」

「こうして言いたいこと言って2人で話したら、ちゃんと俺の中で雫との事を終わらせられてるんだってしっかりと思えた。…だから今日、君と会えて良かったよ」


そう言った颯人は静かに笑い、残りを食べ進めた。未だ言葉を失う雫に「食べないと固くなるよ」と声がかかる。

言われるがままにフォークへ手を伸ばした時、図ったかのように山中が席へ戻ってきて颯人の隣に腰を下ろした。


「話は終わった?」


開口一番に含みのある言葉を放つ山中に、颯人は冷ややかな視線を送る。


「どっかで聞いてたんでしょ、どうせ。タイミング良すぎるんですって」

「さあなんのことだか。ていうか俺の頼んだグラタンセットはまだ来てない?」


テーブルの上に並べられた料理を見て不満げに漏らす山中に、殆どを食べ終えた颯人が「何言ってんですか」と素っ気なく言う。



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