それは麻薬のような愛だった
「注文する時に時間かかるって言われてたじゃないですか。なんでただでさえ時間のない昼時に提供が遅くなるもん頼むんですか」
「いいじゃん。グラタン好きなんだよ」
飄々と言いながら山中は颯人の隣に腰を落とし、頬杖をつきながら雫に笑いかける。
「雫ちゃん、日下部と友人ってあれ嘘だよね。さっきどんな事話してたの?」
「え、あ…いや、それは…」
「恋愛相談なら俺は適任だよ。話聞こうか?」
「や…別に大丈夫です…」
「ちょっと山中さん、今後仕事やり辛くなるんで契約先の社員にまで手出すのやめてくれません?」
「人聞き悪いなあ。人を手癖の悪い男みたいに」
「実際そんな感じでしょうよ」
目の前の男2人の言い合いを黙って聞きながら雫はナポリタンをフォークに巻きつける。人気メニューだけあって美味しいのだろうが、今の雫には全く味気なく感じた。
颯人の言う通り決めるのは自分だ。この関係を切るのも、続けるのも。
伊澄に対して言いたいことは無いけれど、聞きたいことは沢山ある。手袋のこと、第二ボタンのこと。…未だ胸に残る、キスマークのこと。
興味が無いから、意味がないから。そう理由をこじつけてはいたけれど実際のところ、颯人の言う通り見て見ぬふりをしていただけなのだろう。
また期待して、傷つくのが怖いから。
「……」
一瞬過った言葉を頭から振り払う。傷つくってなんだ。期待するってなんだ。
——ああもう、本当に嫌だ…
だから嫌なのだ。伊澄の事を考えるのは。
振り回されて、頭から離れてくれなくて、ずっと苦しくて。
体だけの関係であれば、そんな事考える必要もなくなって、楽なのに。