それは麻薬のような愛だった
「でもその男、最近になってお姉ちゃんに連絡してきたんだよ。ママ知らなかった?」
「何それ、初耳だわ」
「あら〜。これまた随分と勝手な男ねえ」
女達の自由奔放な会話に父親含めテーブルに座る男勢はどこか居心地悪そうにしていた。
そんな中でも伊澄は鋼の心臓を発揮して提供された料理に黙々と手を伸ばしていたのだが、那月の発した発言にピタリと動きを止めた。
「本当だよ。お姉ちゃんがいつまでも引き摺ってるとでも思ったのかな?別れた女がいつまでも自分を想ってくれてるなんて、とんだ思い込みだよね」
鈍器で頭を殴られたらこんな感じなのだろうか、無傷なはずなのに、伊澄は何故か頭の奥に酷い痛みを感じた。
「確かに…別れてから大事だった事に気付かれてもねえ」
「そうそう!こっちはサッサと吹っ切れて次に行ってるんだっつーの!」
「男の傷は男で癒せってこれ定石よね〜」
ヒートアップする女達の会話の中の言葉の弾丸が容赦なく降り注ぎ、遂に伊澄は気分の悪さを感じた。
何気ない風を装いながらその場を立ち、会場を抜ける。閑散としたエントランスホールで適当な場所を見つけると、伊澄は力無く腰を下ろした。
"別れてから大事だった事に気付かれても"
その言葉が妙に頭に響き渡っていた。
半年前の伊澄であれば何食わぬ顔であの場に残れただろう。だがその台詞が不自然なほど響いて聞こえたのは、思い当たる節があるからに他ならない。
咄嗟に頭を過った一人の女の顔。
以前には確かにあったはずの、雫が自分を見つめる際に感じていた瞳の熱が消えた事に気付いたのは、その瞬間だった。