それは麻薬のような愛だった
雫の顔を掴んでいた手の力が抜け、脳内が白に染まる。
問い返せば、雫は何でもない事のように他の男との行為では拒絶反応を起こし、キスですら受け入れられないと言った。
——じゃあ何で、俺とはできるんだ。
思い返しても一度もそういった素振りは無かった。行為の後は眠る雫を必ず眺めてから寝ていたし、朝を迎えても顔色が悪かった記憶は無い。
呆けた伊澄を置き去りにして雫は部屋の奥へ向かえば、さも当然かのように服を脱ぎ始めた。
ずっと雫が自分を見ていないのは気持ちが離れた所為だと思っていた。
だが雫の言葉を聞き、疑う事なくその身を差し出そうとする姿を目の当たりにし、伊澄は今までの自身の認識が全て間違っていたのだと気付いた。
自分が雫を壊してしまったのだと、初めて気付いた。
雫にとって伊澄は変わらず彼女の気持ちなど見ようともせず己の欲をぶつけてくるだけの存在で、そこに情など微塵にも存在しないと思っている。
自分だけを愛して欲しいなどと言えるはずもなく、耐えて耐えて、必死に耐え抜いて気持ちを押し殺した先で待っていたのは更なる地獄でしか無かった。
高校卒業以降、新しい道へ踏み出そうとした雫が誰も愛せない体になった事を知った時、一体どんな気持ちだったのだろう。
再会したあの日、昔と変わらない体だけの関係を求められた時、どれほどの絶望を味わっただろう。
そこで伊澄に拒絶反応が出ないと知り、微かに残っていた希望すら打ち砕かれ、心が粉々に砕け散った雫がこの道しか選べなくなった事を、誰が責められるだろう。