それは麻薬のような愛だった
ずっと言えなかった、胸に秘めて秘めて殺そうとしていたものを、漸く吐き出した。
消そうとした。消えたと思っていた。けれどどうしても消えてくれなかった想い。
あれだけ悩んだのに伝えるのはこんなに呆気ないのだと、諦めにも似た感情が雫の心を覆っていく。
「ずっと好きだった。今でも好き。だからもう耐えられないの。…いっちゃんが他の人のところに行っちゃうのが」
私だけを見てほしい。
私だけを愛して欲しい。
私だけのものになって欲しい。
一度開いてしまった欲の塊はもう押し込む事は出来なくなってしまった。
だけどもういい。覚悟は決まった。
元々今日、別れは告げるつもりだったのだ。
そこに妊娠というイレギュラーが起きてしまっただけで、選ぶ選択に変わりは無い。
伊澄に罪がなかったとまでは思えないが、そんな所も含めて好きになったのは雫の方だ。
そっと下腹部に手を当て、目を閉じる。
この子はある意味贈り物だ。
好きだった人を求めても得られず、間違いを犯してまで愛する事しか出来なかった臆病な自分への、神様からの最後の情け。
伊澄を断ち切るきっかけをくれたのだと、そう思えてやまなかった。
だから雫は選んだ。大好きな人と離れて、大好きな人の子供と暮らす道を。
この選択が間違いかそうでないかなんて関係ない。例え逃げだと誰に罵られようが、貫き通せばいいだけの話だ。
もう伊澄にとって都合の良い女では居られなくなってしまった。ならばせめて、彼の面影を追う事だけは許して欲しい。
どうせどれほどの時が経ったとて、雫が愛する男は伊澄一人だけなのだから。