それは麻薬のような愛だった
「雫…」
伊澄は宝物にでも触れるような手つきで触れ、心から愛しいといわんばかりに甘く囁く。五感を刺激する伊澄から与えられる全てが、これが勘違いなどではなく現実だと教えてくれる。
何度も手放そうとし、それでも今目の前に居る伊澄が、愛おしくてたまらなかった。
再び見つめ合い、静かにゆっくりと唇が重なる。
一瞬だけ触れたキスに確かな幸せを感じていると、伊澄の顔が雫の肩に落ちた。
「…こんなに幸せなら、もっと早く言うんだった」
伊澄も同じ気持ちを感じていたのだと知り、雫の目に再び嬉しさで涙が浮かぶ。
「…私もごめんね。早く自分の気持ちに向き合ってちゃんと伝えておけば…こんなに遠回りしなくて済んだのに」
「なんで雫が謝るんだよ」
伊澄が顔を上げ少しだけ不満げに眉を寄せる。けれどすぐに何かを思いついたように、真剣な面持ちで雫を見つめた。
「…けど、それならこれからは思ったことは何でも言って欲しい。悲しいこともムカつくことも、俺がクソだと思ったらすぐに言え」
「マイナスな事しか言ってないよ」
「…まだ自信が持てねえんだよ。俺なんかが雫に選ばれていいのかって」
「そんな事言わないで、いっちゃん」
伊澄の視線に応えるように笑顔を返す。潤んだ瞳からは涙が落ちたが、それを拭うことはしなかった。
「いっちゃんがクソなら私だってクソだよ。人に胸張って言えないようなこと、ずっと続けてきたんだから」
「…雫の口からクソって言葉はあんま聞きたくねえな」
「そうだね。私もあんまり言いたくないな」
だから、と雫は穏やかな口調で続ける。
「だからこれからはきちんとお互いに伝え合おう。幸せな事も、嫌なこともたくさん共有して、信じ合っていこう。…私達、親になるんだから」