それは麻薬のような愛だった
「気になるってならハウスキーパー雇う。それくらいの甲斐性はある」
「え!?だめだよそんなの、勿体ない!それなら私が少し頑張ればいいだけで…」
「雫」
再び言い聞かせるように呼べばぐっと黙り込む。少し悩んだ後、雫はわかったよと納得した。
「けど本当に一時期より元気になったんだよ。だから今日は簡単なものだけどご飯作ってみたの」
「それはありがたいが…無理はしてないな?」
「うん。いっちゃんこそ仕事疲れたでしょう?ほら、ジャケット貸して。片付けてくるからゆっくり食べて」
雫は背に回り、スーツのジャケットをするりと脱がしていく。この瞬間が密かに好きな伊澄は甘んじてそれを任せ、鞄も受け取り寝室へ入っていく雫の背を見送った。
何度見ても幸せな光景だなとネクタイを解きテーブルの上へと置くと、何故かすぐに雫は戻ってきた。
その表情は少し強張っていて、勢いよく近付いてきたかと思えば目の前でピタリと止まった。
「いっちゃん…」
「なんだ、どうした」
それまで見たことない雫の様子に伊澄は思わずたじろいだ。そんな伊澄の前で雫はスッと何かを差し出し、そのまま伊澄を睨みつけた。
「いっちゃんの、ばか!」
「!?」
一瞬何を言われたのか分からず固まっていると、雫は差し出していたものを近くのテーブルに叩きつけた。
雫が手にしていたのは全く見覚えのないピアスで、女物だった。雫は耳に穴を開けていないし当然伊澄も女物は身に付けない。
ならばこれは一体誰のものなのか。
しかしそんな考えは雫の言葉によってすぐに吹き飛んだ。
「私、実家に帰らせていただきます!」