それは麻薬のような愛だった
「悪いが今日も遅くなりそうなんだ。体調は大丈夫か?何もしなくていいからゆっくり休めよ」
『ありがとう、大丈夫だよ。いっちゃんこそ無理しないでね。夜食作って置いておくね』
「おい、休めって言ったろ」
『私がしたいの。…ね、いっちゃん』
「ん?」
こんな声が出せるのかと思うほどに優しい声が出た自分に驚きながら、伊澄は雫の言葉を待った。
『わざわざ電話くれてありがとう。大好きだよ』
「!」
突然可愛いらしい言葉を吐く雫にグッと喉が鳴る。目の前に居たならば抱き締められたのに、それが叶わないのが腹立たしい。
『じ、じゃあ先に休ませてもらうね!おやすみなさい!』
自分で言って恥ずかしくなったのか、雫は伊澄の返事も聞かずにぷつりと電話を切った。通話が切れた事を知らせる電子音は機械的で寂しげなのに、伊澄は耳からスマホを離せないでいた。
——据え膳…
今すぐに触れられないのは悔しいが、それでも家に帰れば雫が待っていてくれると思うと心が救われる。
本当に雫が離れないでくれて良かったと、しみじみと思う。
見放されてもおかしくなかった。嫌われたって仕方がなかった。それほどまでに過去の自分の言動に後悔し、恨めしさすら覚える。
だからこそもう間違えないし、二度と離さない。
伊澄の心をこれほどまでに満たしてくれるのも、愛を囁きたいと思うのも雫ただ一人なのだ。
ようやくスマホを耳から離した伊澄はそれを仕舞い込む。強張っていた顔は綻び口角を上げたまま、法務部のフロアまで足を進めた。
一刻も早く、可愛い妻にただいまのキスを落とすために。