それは麻薬のような愛だった
振り回されると言っても、紬は外見こそ伊澄だが性格は雫によく似ており、本来は外で遊ぶより家で本を読んだりおままごとをする方が好きな大人しい子だ。
特にお気に入りなのは雫が紬の為に作ったぬいぐるみで、それでお世話ごっこをして遊ぶのが大好きだが、一度それを伊澄が誤って洗濯に出した時に死ぬ程泣かれてその時はさすがに慌てていた。
紬は雫とよく似て、好きなものが変わらず同じものばかりで遊ぶのでそれはそれで少し心配している。
他愛無い話をしながら会場に入り、受付を済ませる。混乱を防ぐ為なのか旧姓での登録にホッとしつつ、配られた名札にも迷いなく「杜川雫」と記入した。
とはいえそれほど顔の広くない雫は友人以外に誰かれそう声をかけられることもないので、そのまま友人達と共に開始を迎えた。
今回もまた立食パーティーで、普段まともにゆっくりと食事が出来る機会の無い雫はこの時間を密かに楽しみにしていた。
並べられた料理たちを皿に取りながら久しぶりの日本食に感動を覚えていると、ほど近い場所にいた男女の会話が耳に入ってきた。
「やっぱり天城は不参加みたいだな」
「ホントそれ。伊澄に会えると思って来たのに超萎えるわ」
伊澄の名前に思わず反応してしまい、雫はついその場に踏み止まってしまった。
所謂一軍と呼ばれていたであろう雰囲気の男女は雫の存在を気にする事なく話を続ける。
「んなこと言ったって天城のやつ既婚者だぞ?」
男が呆れながらそう言ったが、派手な身なりの女はハッと鼻で笑いながらシャンパンを煽った。
「何言ってんの?あの伊澄が結婚生活なんて続けられる訳ないじゃん。それだってデキ婚って聞いたし、どうせ責任取って仕方なく籍入れただけでしょ」
黙って聞きながら雫は隣の皿の料理を移し取る。ぼんやりしていたせいで取りすぎてしまった事に気付いて慌ててトングを置き、気まずさからさすがに去ろうと足を伸ばした。
「それに伊澄くらいのスペックなら、バツ1だろうが子持ちだろうが全然気になんないし」