それは麻薬のような愛だった
突然そんな事を言われても思いつかない。伊澄が借りを作るのが嫌なのだろう事はわかるが、特に欲しいものなんて。
——あ…、
そう思ったところで思いつく。
あった。ひとつだけ。伊澄からしか貰えないもの。
「…ほんとに、なんでもいいの?」
「そう言ってんだろ」
「じゃあ…第二ボタンがいい」
「は?」
素っ頓狂な声と共に伊澄は雫を見下ろす。雫は至極真剣な目で伊澄を見つめた。
「いっちゃんの第二ボタンが欲しい」
どうせ自分の気持ちなどばれているのだ。ならばこれくらいの我儘は構わないだろう。
「…そんなんでいいのか?」
伊澄は怪訝そうな顔を雫に向けた。
第二ボタンと言えば、恋心の象徴。伊澄にとってはそんなものだろうが、雫にとっては違う。中学の時は彼女がいて、欲しいと言えなかった。
どうせ特別になれないのならば、せめて形に残るものが欲しかった。
ほんの少しでも伊澄の心に近づけたという、証が。
「…分かった」
伊澄は拒絶しなかった。それでまた、微かな期待を抱いてしまった。自分の気持ちを分かった上で、受け入れてくれたのではないかと。
けれどそんな淡い期待も、数日後には無情に散ることとなる。
クリスマス当日には他校の女生徒と歩いていて、それが伊澄の新しい彼女であることは瞬く間に広まった。
約束どおり出来上がった手袋を渡した時にはすっかり春の季節となり、3年生を迎えていた。