それは麻薬のような愛だった
「雫、お前飯は?」
伊澄の問いかけにハッと我に帰る。見れば視線を前に向けたまま問われていた。
「…食べてない」
「腹は空いてるか」
「うーん…あんまり…」
同窓会のあった時間は昼過ぎで、変な時間に食べてしまったせいかあまり空腹を感じない。
「いっちゃんは?」
「お前が食わねえならいい」
なんの答えになってないのだが。ならなぜ空腹具合を聞いてきたんだろう。
そんな思考を巡らせてるうちに車は目的地についたらしく、車が停車し2人は車を降りた。
着いた先は予想通りラブホテルで、無人のエントランスを抜けて伊澄が部屋のパネルを操作するのをぼんやり眺めながら雫は黙って立っていた。
その後歩き出した伊澄の後ろに続いてエレベーターで部屋のある階に上がって廊下を進み、指定したであろう部屋に入った。
ラブホテル自体が初めての雫はそのいかにもな造りに口の端が緩んだ。
すると近づいてきた伊澄が雫の肩を掴み、そのままゆっくりと抱き寄せた。
「い、いっちゃん?」
以前は無かった行動に少しばかり動揺した。
戸惑い再び名前を呼ぶも伊澄は何も話さない。けれど雫の身体に腕は回ったまま。
訳がわからなかったがしばらくすると体は離され、近づいてくる顔に途端にスッと頭は冷えていく。そしてそれに抗うことはせず、雫はゆっくりと目を閉じた。
伊澄の唇が自身のものに触れた瞬間、込み上げてくるであろう不快感を覚悟した。