それは麻薬のような愛だった


脳の機能を停止してぼけっとテレビを眺めていると、インターホンの音が部屋に鳴り響いた。

ゆっくりソファから腰を上げ、ぱたぱたとスリッパの音を鳴らしながら廊下を抜けて玄関に到着し、ロックを解除して訪問者を招き入れた。


「お疲れ様、いっちゃん」


相変わらず、いや年を重ねてますます色気を増した伊澄が「おう」と短い返事をしながら部屋に上がった。

雫はジャケットと鞄を受け取り、部屋の奥に向かう伊澄の背中に声をかけた。


「夕食は?」

「済ませた。お前は」

「食べたよ」


スーツのままソファに腰掛ける伊澄を横目に、雫は甲斐甲斐しくもジャケットをハンガーにかけて鞄はその側にそっと置く。


「何か飲む?お母さんが送ってくれた葡萄あるよ。ちょっといいやつ」

「じゃあ茶。葡萄も出せ。どうせ一人で食べきれない量送ってきてるんだろ」

「そうだよー減らしてって言ってるんだけどね」


心配症だから、とクスクス笑いながら雫は冷蔵庫で冷やしていた麦茶と葡萄を取り出し、麦茶はグラスへ葡萄は大きめの皿に移してソファー前のローテーブルに置いた。

思春期にはぎこちなかった会話も、定期的に会うようになり頻度が増えるにつれて慣れていった。


そう、慣れたものだ、会話も、その後の事も。

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