それは麻薬のような愛だった
「今日は大丈夫だと思うよ」
「どういう意味だよ」
「こっちの話」
怪訝な顔をする伊澄にすました顔で答え、ハニーカフェオレの甘さに癒される。
そのまま特に話をふるでもなく食べ終え、そろそろ向かおうと食器を片付け店を出た。
電車のホームへと歩き進める間、雫はふと思う。伊澄と自然に並んで歩くようになったのはいつからだろうと。
身長がそう変わらなかった頃はともかく、学生の頃は稀に帰宅が重なった際にはいつも雫は伊澄の歩調に合わせて早足だった。伊澄は身長が高い上に足まで長く、体型全てが平均の雫では普通に歩けば置いていかれる。
けれどいつの間にか雫は自然な速度でも歩けるようになっており、それはつまり伊澄の方が歩調を合わせてくれているということになる。
——大人になったなあ…
そんな感慨深さを覚えているうちにホームに到着し、そのまま遊園地へと向かう電車に乗り込んだ。
朝が早いおかげか車内は多くも少なくもなく、その殆どはスマホに視線を落としている。稀に同行者と話しているものも見かけはするが、ほぼ必ずと言っていいほど一度は伊澄に視線を向ける。
それだけで、今の伊澄が昔と変わらず周囲の羨望を集める人間であることが窺えた。
そんな伊澄と、これから2人で遊園地に向かう。昔の雫が聞けば飛び上がって喜んだだろう。
けれど今の雫の心は、凪のように穏やかだった。