それは麻薬のような愛だった
突如、ガタンと電車が大きく揺れた。
スタンションポールを持っていた雫だったが、考え事をしていたせいで慣性力に負けて大きくバランスを崩してしまった。
「っ、」
それを留めたのは伊澄で、支えるように腰付近に手が添えられている。揺れが収まった後でもそれは変わらず、伊澄の大きな手は身体に触れたままだった。
「大丈夫かよ」
いつかと同じ言葉。それは初めて伊澄と体を重ねた日によろけて転けた時にかけられた台詞と同じだった。
「あ、ありがとう…」
そして同じ言葉を返す。あの時は恥ずかしさで目を逸らしたけれど、今はしっかりと目が合った。
綺麗で力強い瞳は、間違いなくまっすぐに雫に向けられていた。
「…ごめん、ぼーっとしてた」
「…危ねえから支えとく。いいな」
「うん…」
伊澄に今更触れられるのなんて特別でも何でもない。
けれど咄嗟に重なった視線に、確かに雫の胸はちくりと痛みを覚えた。
——なんで、今更…
その理由は、いくら考えても分からなかった。