それは麻薬のような愛だった


様子のおかしい伊澄を怪訝に感じつつも無事に移動し、キャラクター達の可愛いくも華々しいパレードを大満足で見終えた。

しかし次の予定である当選したショーまでは空き時間が中途半端に時間が出来てしまい、どうしようかと頭を悩ませる。

露店のフードを買っても良いが、朝食の際に馬鹿にされた手前意地が邪魔してそれも気乗りしなかった。更に言うならば、アトラクションに乗るのも憚られるような時間だった。

結局、少し荷物にはなるが雫はこの際だとばかりに本来の目的だったキャラクターのぬいぐるみを買うことにした。


「いっちゃん、ぬいぐるみ買いたいからお土産屋さんに行ってもいい?」

「もう買うのか。荷物になんぞ」

「まあそうなんだけど。早い方が空いてるしいいかなって」

「ふーん…」


反対されなかったので了承と受け取り、土産店の並ぶ通りに向かう。

雫はそのひとつに入ると、家にいる仲間達と同じサイズのものを見つけ迷わず手に取った。そこに着いてきていた伊澄が横から覗き込んでくるなり、無表情のまま尋ねてきた。


「今度増えんのはネコなのか」

「違うよ。どう見てもキツネでしょ」


ほら見てよと雫が猫にしては大きすぎる尻尾を見せれば、大して興味も示さず伊澄は「ふーん」と返した。そして懐に入れていた手を出し、雫の目の前に手のひらを向ける。


「貸せ」

「?うん」


唐突に言われ、よく分からないまま伊澄へ手渡した。


「買うのはこれだけか」

「そうだね。うち狭いから物を増やすのも良くないし」

「なら買ってくるから先に外出とけ」

「へ?」

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