それは麻薬のような愛だった


「なら申し訳ないんだけど、いつでもいいからその時に伊澄にいい加減実家のクローゼットの中を片付けるよう言っておいてくれないかな?」

「クローゼット…ですか?」


そう聞き返したところでケーキを運んで来た母がそれぞれの前に皿を差し出し、雫の前にはチョコレートのケーキが置かれた。

一旦手をつけるのを待ち首を傾げていると、伊澄の母は親子でよく似た切れ長の美しい瞳で真っ直ぐに雫を見つめながら、首を縦に振った。


「そう。殆ど帰ってこないから今は私の私室として使ってるんだけど、スペース取られて地味に邪魔なのよねえ」


そう言った彼女の前にはショートケーキが置かれ、それを差し出した母もうんうんと何度も頷きながら話に入ってきた。


「分かるわ〜。雫も長期休暇の時には帰ってくるけど、それでも掃除の時とか邪魔だもの」

「ごめんって…」


邪魔だとハッキリ告げられ苦い顔を返せば、紅茶を飲んでいた伊澄の母が「正にそれなのよ」と同調する。


「勝手に捨てたら絶対怒るし。アルバムなんかはまだいいとして、問題は服よ。嵩むから邪魔だし傷むし……特に、制服なんてもう絶対着ないでしょう?」

「……え?」


制服という単語に思わず言葉を失う。対して伊澄の母は何でもないことのようにショートケーキにフォークを刺し、流暢に続けた。


「帰省の度に処分しろって言ってはいたんだけどね。その度に無視されるから最近は諦めてて」

「制服って高校の時のもの?確かに要らないわよね。何か思い入れでもあるのかしら?」

「さあ?…ただご丁寧に第二ボタンだけ残ってるから、差し詰め好きな女の子にでも残してフラれたんじゃない?」


伊澄の母はそう言うと、ふっと鼻で笑い言葉を続けた。


「しょうもない事ばっかりしてるからそんなことになるのよ」


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