それは麻薬のような愛だった
「あ、」
雫がそう声を発したのは、ほどほどに狭いワンルームのベッドに伊澄によって押し倒された時だった。
首筋に首を埋めていた伊澄が顔を上げ、なんだよと言いながら怪訝な顔を向ける。
「そういえば私、いっちゃんのお母さんから伝言預かってたんだった」
「は?」
「この間帰省した時にうちに遊びに来てくれてね。その時にちょっとお話ししたんだ」
「…それ、このタイミングで言うことか?」
「だって今思い出したんだもん」
母親というワードに興が覚めたのか、伊澄がゆっくりと体を離したので雫も起き上がる。伊澄は面倒そうに頭を掻き、そして自身の膝に腕を落とす。
「で、なんだって?」
「うん。なんかいっちゃんの部屋のクローゼットの中を早く片付けてくれって。あの部屋、今はおばさんが使ってたんだね」
肩から落ちたカーディガンを直しながら言うと、伊澄は表情を強張らせ低い声で問うてきた。
「…他に何か言ってたか」
「いや?特に何も」
「……」
硬い表情で黙り込む伊澄に雫は苦笑いを向ける。
「ごめん。確かにタイミング悪かったね」
言うや否や雫が立ち上がると、途端に腕が掴まれ阻まれた。
「どこ行くんだよ」
「ちょっと一服。外で吸ってくるよ」
どうせ続きは出来ないでしょという含みも込めて言うと、伊澄は黙って手を離した。
棚の上に置いていたタバコケースとライターを持ってベランダのドアを開く。そのまま灰皿の側に立ち、煙草の先に火をつけ深く息を吐いた。
年末ほどの勢いは無いものの年始も忙しく、そのせいかここ最近は喫煙の頻度が多くなっている。さすがに減らさないとと常々思ってはいるが、なかなか難しい。
そうは言っても帰省中は一度も手にしなかったし、1日にそう何本も吸いたくなるわけではないからベビースモーカーでは無いとも思っている。