それは麻薬のような愛だった
少しだけ開いていた口から舌が入れ込まれ、雫のそれを絡めとる。その間に伊澄の手が後頭部へと周り、背中から倒されればそこにあったベッドフレームへ体が当たった。
「…っは、いっちゃ、」
伊澄の唇が少しばかり離れ、下唇を甘く食む。ゆっくりと移動してきた指の腹で耳の縁を撫でられ勝手に漏れ出る声を聞きながら、雫は伊澄を柔く制止した。
「私…煙草吸ったばっかりだよ…?」
「……」
伊澄は答えない。元より口数の少ない男ではあるが、行為の最中は更に無口になる。
まあいいかと半ば諦めながらもう一度重ねられる唇を受け入れると、ネグリジェのスカートの裾から入ってきた手によって腿を撫でられた。
次第に脳内が痺れ、意識が溶けていくのを感じながら雫は抵抗する事なく目を閉じる。…が、その直前に見えた伊澄の表情に違和感を覚えた。
それは他人であれば見逃すような、些細な変化。
けれどこれだけ長い間近くに居て、伊澄を見続けてきたのだ。いくら表情の変化の乏しい伊澄とて、喜怒哀楽が全く無いわけじゃない。
その時に見えた表情は、雫でさえこれまで一度も見たことのないものだった。
「いっちゃん…?」
思わず伊澄の体を押した。しかしそれをどう捉えたのか、伊澄は雫の抵抗を阻み体をシーツの上へと張り付けた。
「…黙ってろ…」
うつ伏せにされ、伊澄の表情はもう見えない。
それでも雫の頭には、先程一瞬だけ見えたどこか悲痛さを感じる顔が、ずっと離れなかった。