それは麻薬のような愛だった


それからまた少し時が経った。


年末の繁忙期が終えたかと問われれば答えは否だ。

年度末にもなると確定申告業務が始まり、年度が明けると今度は決算業務に追われる。

それに加えて通年の仕事である記帳代行だったり監査業務は普通にあるため、この期間中の定時なんてものはまず意味を為さない。

故に冬から春にかけての数ヶ月は、税理士が最も気落ちする時期とも言えるだろう。


「あー…癒しがほしい…」


机に突っ伏しそう宣ったのは、雫の同期であり同じ事務所に勤める小林(こばやし)美波(みなみ)という同僚だ。つい先ほどまでリモートでの客先訪問を行い、月次報告を終えたばかりだ。

雫の事務所では複数の契約先をチームで対応することが多く、その日の担当は雫と美波が任されていた。会議室で周りから見えない聞こえない事を良いことに、美波はこれでもかとだらけ体を机に沈ませる。


「気持ちはすごい分かるけど、嘆いても仕事は減らないよ」

「分かってるけどさあ。こちとらもう何ヶ月も定時退社してないんだよ!いい加減疲れるよ〜」

「それでも土日出社が無いだけうちはマシじゃない?」

「体力じゃなくて心の問題!何が悲しくて20代のうら若き乙女が毎週末一人寂しく過ごさなきゃいけないのよ。なのにこんなに忙しくちゃ彼氏も作れやしない!」

「なら最初から彼氏が欲しいって言いなよ」

「え〜。雫ってばほんとこういう話になると途端に素っ気ないよね」


美波に言われるも「そう?」とすました顔で返す雫は、顧客から送られたデータを共有ファイルへと移し込む。

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