それは麻薬のような愛だった
「雫は彼氏欲しくないの?」
今居ないよね?と聞かれて雫は肯定を返した。
「私はいいかな。必要性を感じない」
「なにそれ。雫って私と同じ歳だよね?枯れるにはさすがに早過ぎない?」
「枯れてるのとは少し違うと思うけど…まあいいじゃない、私の話はさ」
実際聞かれても話せることは何も無いので矛先を逸らす。
そもそもの話、雫にとって恋愛は癒しの対象ではない。
かつて伊澄に抱いていた恋心は嫉妬と失意に塗れたとてもじゃないが楽しいと思えたものではなく、颯人を拒絶してしまった際、僅かな希望ですら粉々に砕け散った。
素っ気ないと思われているのは心外だが、こと恋愛において他人と同調出来ることが無い為まず話が盛り上がらない。それ故にこの手の話題は極力避けたい、それだけの話だ。
「美波はどういう男性がタイプなの?」
「そりゃあ勿論、新木那由多みたいな顔で、頭が良くて一途で優しくて、かつしっかりした経済力がある人」
話を逸らした手前何か言わないとと思い適当な質問を投げかけてはみたが、返ってきた答えに雫は思わず舌を巻く。
新木那由多といえば、国宝級イケメンランキングに常連で名前が挙がる程に顔立ちの整った俳優ではないか。
美波が新木のファンである事は前々から知ってはいたが更にそれに付随する条件を付けてきたこともあり、雫は困り顔で眉を下げるしか無かった。
「…理想高過ぎない?」
「雫がタイプはって聞くから。結婚相手に求める条件とは違うよ」
「ああ、そう…」
そこではたと恋愛が結婚に結びつくとは限らないのだなと気付く。
確かに契約結婚をテーマにしたドラマもあるくらいだし、そういう考えもあるのだなと雫は目から鱗が落ちた気分だった。