運命の番は真実の愛の夢を見る
侍女たちが花嫁の身体を清め、夜着を着せる。リーゼは抵抗もできず寝室に通された。寝台に腰かけていたアルベルトは新妻を部屋に迎え、ふわりと表情を綻ばせる。
もしリーゼが初夜に緊張する花嫁だったなら、その笑顔に安堵しただろう。現実はただ不安が増しただけだった。なのに、引き寄せようとする手を拒むこともできない。
ぎしりと音をたてて身体がシーツに沈んだ。見上げたアルベルトは穏やかな笑顔を浮かべている。リーゼは気味の悪い恐怖を覚えた。
このまま進んでしまって本当にいいのか。拭い去れない疑念は警鐘だ。白い結婚は無効にできる。契ったらもう戻れない。
クラウディアの糾弾が耳について離れない。
運命だったら、許されるの?
そんなわけはない。けれどこの国ではそれが正しい。王女でさえ逆らえない。でも彼女は泣いていた。気丈な女性が恥も外聞もなく泣き叫ぶくらいに、自分たちは人の心を踏みにじった。
「リーゼ……?」
胸を押し返されたアルベルトが、怪訝に眉をひそめた。心を揺らがせたくなくて、リーゼは目を背けた。
「ごめんなさい……私、あなたと夫婦になれない」
「なぜ。僕のことを、愛してるんだろう?」
「愛してるわ」
一緒にいると楽しいし、幸せだと思う。笑顔を見れば嬉しくなって、もっと喜ばせたいと思う。初心なリーゼでも、これが愛することだと分かる。でも。
「これは、運命に仕組まれた感情なんでしょう。それって本当に愛していると言えるのかしら……?」