運命の番は真実の愛の夢を見る
 きっとリーゼは、アルベルトがどんな人間でも無条件に愛してしまう。たとえ倫理観の欠けた犯罪者であっても、運命に決められているから。彼の中身などどうでもいいのだ。大切なのはその器だけ。
 アルベルトのリーゼに対する愛情だって同じだ。それが彼の中にあったクラウディアへの思いを塗りつぶし、冷酷な態度をとらせた。
 自分たちのいびつさをはっきりと自覚して涙が出そうになる。けれど耳に届いたのは、くすりと喉の奥で笑う気配だ。

「言えるよ。当然だろう、リーゼ」

 この上なく優しく、子供を諭すような声だった。アルベルトはにっこりと美しい笑みを浮かべる。

「その感情がどこから来たものかなんて、些末なことだ。大事なのは、僕らが今愛しあっている事実だよ。仕組まれたものだろうと、愛は愛だ。違いなんてない」
「そ、んなの……おかしいわ。だってきっと、あなたがどんな人でも、私は恋に落ちてた」

 クラウディアは、長い時間をアルベルトと過ごして、長所も短所も全て知っていると言った。そのうえで彼を愛していた。きっとそれこそが本物の愛なのだ。
 なのに、アルベルトはおかしそうにくすくすと笑う。

「それがなんだっていうの?」
「……っ」
「だから、この愛は偽物だって? なら離縁する? それで本当の愛を探すの?」

 彼の口から出た離縁という言葉にリーゼは怖気づきそうになる。けれど、こんな愛の形は間違っている。
 リーゼが頷くと、そこで初めてアルベルトは笑みを消して、ふうんと平坦な声を漏らした。無感情な瞳に得体の知れない恐ろしさを覚える。けれど、リーゼは目を逸らさなかった。

「……まあ、いいよ。クラウディアのこともあって、リーゼも動揺しているんだろう」

 やけにあっさりと引いたアルベルトが、寝台から降りていく。その背中が扉に向かうのを目にして、リーゼは上体を起き上がらせた。

「離縁してくれるの?」
「それはリーゼ次第。時間をあげるよ。僕はしばらく別邸で過ごす。君には会わない」

 部屋を出る直前でアルベルトは振り返った。

「その間に僕以上に愛せる人を君が見つけられたら、離縁を考えてもいい」
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