歪んだ月が愛しくて2
「はぁ…」
「え、溜息?」
突然の溜息に過剰に反応する。
会長は未空と陽嗣先輩がじゃれ合う横で、大袈裟に溜息を吐いて呆れた表情を見せた。
「お前、バカだろう」
ムカッ。
「……溜息の次は悪口?」
「バカにバカと言って何が悪い」
「ま、分かっていたが」と余計な一言まで。
「アンタな…」
文句を言ってやろうと思った。
いつもいつも一言余計なんだよ、と。
「言ったはずだ。弟と向き合うと決めたのはお前自身だと。俺もコイツ等も何もしてねぇよ」
でも文句なんて言えなかった。
「でも、カナに言いたいこと言えたのは…」
「でももへったくれもねぇんだよ。焚き付けた自覚はあるが決めたのはお前だ。お前が、お前の意志でな」
「………」
『大丈夫だ』
あの言葉に、どれだけ救われたか。
どれだけ勇気をもらったか、会長は分かってない。
「……違うよ」
背中を押してくれただけじゃない。
あの言葉があったからこそカナを前にしても俺が俺でいることが出来たし、本当は怖くて逃げ出したくてもこのままじゃダメだと思えて踏ん張れたんだ。
「会長がいたから…」
「違わねぇよ」
会長は手に持っていた書類を丸めて、ポンッと俺の頭を叩いた。
「頑張ったな」
「っ、」
その声色に胸が軋んだ。
直に触れてないのに頬が熱くなって、目頭に何かが込み上げる。
それをグッと堪えて、頬の熱を振り払うかのように会長に噛み付く。
「ガ、ガキ扱いすんなっ!」
「あ?ガキのくせに生意気だな」
「だからガキじゃねぇって!二つしか違わねぇだろうが!」
「くくっ、説得力ねぇんだよ、その面じゃ」
「笑うな!てか、話はもう終わったんだから仕事しろよ!このサボり魔!」
「誰がサボり魔だ。そんなに仕事させたきゃコーヒーくらい淹れて来い。仕事はそれからだ」
「命令口調とかマジうぜぇ!」
「早くしろ。俺の女房なんだろう?」
「はぁああああ!?」
会長は言いたいことだけ言うと、鼻歌交じりにアームチェアを回転させて背を向けた。
人の気も知らないで、上機嫌な会長の姿に堪忍袋の緒が切れたのは仕方ないことだと思う。
「だったらパシリの方がまだマシだー!!」
笑って、怒って、バカやって。
今は、それだけが俺の世界だから。
(まだ気付きたくないんだ…)
「説得力ないのはどちらでしょうね」
「だな」
「みーこの奴、締まりのない顔しちゃってさ。鼻歌キモ」
「言えてる」
「あれは僕達のこと完全に忘れてますね」
「それだけりっちゃんに骨抜きなんだろうよ」
「………」
「ん、どした?」
「未空?」
「そんなの、俺だって…」