歪んだ月が愛しくて2



暫くして白夜叉が聖学にやって来た。

藤岡立夏、と言う名前で。



「……藤岡、です。宜しく…」



第一印象はダサい。
でっかい昭和感漂う眼鏡で顔を隠したパッとしない奴で、如何にもオタクって感じの見てくれだった。
今や白夜叉は都市伝説化されてるのにこれじゃあまるで詐欺じゃないか。



3年前、大都市東都を中心に突如現れた白い鬼。
銀色の髪を靡かせ、返り血のような真紅の瞳がギラリと覗くその風貌は正に鬼のようだと噂された。
本名や年齢、性別すら一切不明。
男も女も関係なく、手当たり次第に破壊と暴走を繰り返し、助けを乞うことは決して許さない。
血も涙もない冷酷非情な白い鬼は、当時を生きる者なら誰もが知っていた。
勿論、俺達“B2”にとってもあの事件をきっかけに忘れられない存在となり、最も憎むべき存在になった………はずだったのに。



「何で、あんな奴なんか…」



頼稀くんに言われた任務。
それは藤岡立夏の護衛だった。

正直、初めは何を言っているのか分からなかった。
頼稀くんは総長の命令だって言ってたけど、それが余計に信じられなかった。
アイツは“B2”を壊滅させた敵なのに、何で総長が白夜叉を守ろうとするのか理解出来なかった。



「その様子だと、彼とは会えたみたいだね」



珍しいことに総長が俺を訪ねてクラスまでやって来た。
珍しいと言うか初めてだと思う。
これも白夜叉効果ってやつだと思うと、余計に俺の白夜叉嫌いに拍車が掛かった。



「……会いましたよ。でも何で俺達があんな奴を守らなきゃいけないんですか?」

「おや、不服かい?」

「っ、……当たり前です。アイツは敵ですよ。“B2”を壊滅させた張本人じゃないですか」

「まあ、結果的にはそうだね。汐が納得出来ないのも無理はない」

「だったらこんなくだらない護衛なんてやめて下さい!時間の無駄です!」



元々俺の任務は総長の護衛だ。
それを態々自分の護衛まで減らして敵を守ろうとするなんてどうかしている。
これまでにも総長は時々何を考えてるか分からなかったけど、これほどまでに総長の考えを理解出来ないと思ったことはなかった。



「くだらない?それはどうかな」

「どう、かなって…」



この時の俺は理解出来ないことについて深く考えようとしなかった。
頼稀くんや総長の言葉に一々反発して、遊馬の言葉にさえ耳を傾けようとしなかった。



「時期に分かるさ。僕が彼を守りたい理由も、何故僕が君達に任せたのかも」

「……分かるわけないですよ」



何も見えていなかった。



「君達は何れ僕の考えを理解してくれるさ。………嫌でもね」


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